本記事は、イベントレポートの連続記事2つ目です。
1つ目の記事はこちら⇒【イベントレポート①】ビジネスケアラー調査で明らかに。仕事と介護の両立リアル<前編>
2022年12月23日、リクシスは、第2回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。本オンラインセミナーは、高齢化の流れが加速する日本社会において、現役世代として働きつつ、同時にご家族の介護にも携わっている「ビジネスケアラー」の方々、そして、その予備軍となる皆様に向けたセミナーです。 イベントの中では、人材育成やマネジメント領域の専門家が語る「ビジネスケアラーが置かれた現実」や、ベストセラー作家と編集者による「同居介護と遠距離介護の実践例」などの生のお声を多数いただきました。
<当日のプログラムおよび登壇者>
第一部【基調講演】「ビジネスケアラー調査で明らかに。仕事と介護の両立リアル」
講演者:大嶋寧子氏(リクルートワークス研究所 主任研究員)
第二部【パネルディスカッション】「ビジネスケアラーの『実践サバイバル術』とは -遠距離介護・同居介護をどう考える?-」
登壇者:松浦晋也氏、山中浩之氏、弊社・木場猛
本記事では、第一部の基調講演の後半部分をダイジェストにてご紹介します。
講演者プロフィール
大嶋寧子(おおしま・やすこ) リクルートワークス研究所 主任研究員
東京大学大学院修了後、民間シンクタンク、外務省経済局などを経て現職。東京大学経済学研究科博士課程(経営学)在学中。研究領域は、女性のキャリア、多様な人材の活躍に関わるマネジメント、人材育成等。所属先では研究プロジェクト「ブランクからのキャリア再開発」、同「十人十色のキャリア選択を可能にする社会」、同「中小企業のリスキリング~デジタル時代のスキル再開発~」などでリーダーを務める。
ビジネスケアラーへのインタビューの最後に、大嶋氏は「ケアラー予備軍の方々に向けたアドバイス」を訊きました。
そこで複数の方が口を揃えて指摘したのが、「介護においては自分から調べたり、申請をしないといけない。知らないままだと損になったり、苦しくなることが多い」ということです。
そして、「さわりだけ介護の話をできる相手というのは見つけやすい。でも、自分が潰れないために本当に必要なのは、深いところまで踏み込んで相談ができる相手」という事実。これもビジネスケアラーが残した言葉です。
「『介護が始まったら、同僚、上司、第三者機関など、種類は問わないので、とにかく何かにきちんと相談してください』とおっしゃった方がいます。自分の親のことだから、どうしても頑張ってしまいがちですが、介護は肉体的にも精神的にも辛い仕事なので、一人で抱え込んでしまうと潰れてしまうんです」(大嶋氏)
介護は身内の問題であり、非常にナイーブな部分があるので、「納得できるまで手を動かしたい」というのは心の動きとして当然です。しかし、無理な頑張りは長くは続きません。「このままではいけない」と感じた時点で楽になる方法を考えないといけないと、あるビジネスケアラーの方は述べたそうです。
とはいえ、「周囲に助けを求める」というのは、慣れていないと難しいのも事実。特に、これまで仕事に頑張って結果を出してきた方にとっては、培ってきたプライドや業務へのこだわりが抵抗となって立ちはだかるでしょう。
「プライドやこだわりが枷となって、周りに助けを求められないビジネスケアラーの方は多く存在します。しかし、勇気を出して自身の窮状を開示したり、育成の観点から見て仕事を若手に任せたりすることで、チームで仕事が回る体制を作れたりと、効率的な働き方にステップアップできる可能性があります」(大嶋氏)
ビジネスケアラーからケアラー予備軍へのアドバイスは、大きく分けて、「仕事と介護を両立するためには、一人で抱え込まないこと」、「支援制度などの情報を集めること」、「楽をする方法を探すこと」、「周囲と協働すること」の4つがありました。
これらの言葉は単なる個人の意見ではなく、データの裏付けがある事実でもあります。
例えば、「介護が始まる前に支援制度についてどれだけ知っていたか」というアンケートでは、ビジネスケアラーの半数が「一つも知らなかった」と答えています。そして、介護開始前に持っている知識が少ないほど、仕事と介護を両立できる体制を築くまでには長い時間がかかるのです。
「ビジネスケアラーの方にお話を聞くと、『仕事と介護の両立体制を作り上げるまでが非常に辛かった』とおっしゃる方が多くおります。そうした『辛い期間』をどれだけ短縮できるかは、事前知識をどれだけ持っているかにかかっています」(大嶋氏)
そして、仕事と介護の両立体制を築くことに時間がかかるほど、ケアラーにのしかかる負担と不安は大きくなります。
この不安定な期間が長く続くほど、離職や転職を考える率が高くなっていくのですが、「ビジネスケアラー会議」第1回のパネルディスカッション(ビジネスケアラーの「実践サバイバル術」とは<崎山さんのケース>)でもあったとおり、介護のために仕事を辞めることは良い選択とは言えません。復職が困難なことはもちろん、仕事がないと「介護が終わった後に襲いかかる虚無感」を振り払うことが難しくなるからです。
あくまでも、仕事と介護を両立できるケア体制を組むことが大切であり、そのためには前もって支援情報を多く知っておく必要があります。
他にも、ビジネスケアラーの方からのアドバイスとして、「一人で抱え込まないこと」というお話がありました。こちらについても、「介護について相談できる人がいるかどうかで、仕事と両立する自信も上下する」という結果が出ています。
相談できる相手が多くいるほど、自分の知らなかった有益な情報に繋がる可能性は高まりますし、介護の渦中にいない者のほうが冷静な判断を下すことができます。また、単純に話を聞いてもらうだけでも、精神的な負担は軽減されることでしょう。
「積極的に仕事環境の改変を行っていくことが、介護と仕事を両立する自信に繋がる」というデータも出ています。調査によると、介護が始まったことを機に、仕事のやり方や同僚との人間関係や協働体制を見直すことで、「この仕事を続けられそうだ」という安心感が高まるといいます。
「介護というのはビジネスケアラーにとって大きな負担です。親が弱っていく姿を見守る辛さは厳しく、そんな中で『仕事を続けることが正しいのだろうか? 離職して、介護に全てを注いだほうが良いのではないか?』という疑問が湧いてくるだろうと思います。ですが、介護は負担であると同時に、職業人としての成長の機会にもなりえます。これまでやってきた仕事のやり方を刷新して、職場での協働関係を見直していったり、ストレスを抱え込まない体制を作り上げる、そんな好機として捉えることが望ましいと感じました」(大嶋氏)
基調講演の終了後、視聴者からいくつか質問がよせられました。ここからは、大嶋氏による質疑応答の内容を要約してご紹介します。
Q1.「介護経験がビジネスパーソンとしての成長にも繋がる」ということは、上司や周囲の方がよかれと思って仕事の負担を軽くしたり、「今のポジションを下りて、もう少し緩い立場になったら」と薦めることはどうなるのでしょうか?
A1.ビジネスケアラーの多くが介護開始当初に感じる不安として、「これまでやってきた仕事を取り上げられたりしないか」というものがあります。上司の立場からすると「よかれ」と思ってキャリアの変更を薦めるのでしょうが、ビジネスケアラー当人にとっては「今の自分の仕事を全うしたいんです」ということもあると思います。介護を巡る状況は千差万別なので、一概には言えないのですが、当人が「仕事は大事だけれど、一時的に責任を軽くしたい」と申し出るケース以外は、「今の仕事を維持しつつ、介護と両立するためにはどういうやり方があるか」について対話を重ねていくことが大事かなと思います。
一回こっきりで終わりではなく、何度も話していく中で理解が深まることもありますし、「今はこうですが、状況が変わったらその時はまた頼らせていただきます」といったコミュニケーションもありだと思うんです。実際、介護はどんどんフェーズが変わっていくものなので、変わる前提で「今の私に必要な配慮はこれです」と遠慮せずに伝えていくと良いでしょう。
Q2.相談する相手の選定はどうすれば良いでしょうか?
A2.難しい問題です。ケアラーの感じている辛さをわかっていない人に中途半端に返事をされても、逆にストレスとなってしまいます。例えば、職場内にそういった介護コミュニティを探したり、あるいはビジネスケアラーの先輩がいたら、その方と話し始めることをおすすめします。なかなか身近ではそういった方が見つからない場合は、「ビジネスケアラー会議」のような場で経験者の意見を聞いてみることも手だと思います。他には、専門家に話し始めるなど、いろんなところに当たって試してみるのが大事かなと考えています。
Q3.「親の介護をしたい気持ち」と「キャリアを全うしたい気持ち」とのバランスを取ることは非常に難しいものだと感じています。この辺り、他のビジネスケアラーたちはどうこなしているのでしょうか?
A3.インタビューの中で、「介護をするために、自分は会社に配慮をしてもらっている。なのに、自分のやりたい希望を伝えるのは申し訳ない。だから、何をしてほしいのかは言えなかったんです」とおっしゃった方がいました。でも、そこで遠慮をしたことで、ケアラー本人の希望することが会社にうまく伝わらず、結果的に溝が深まるという問題が起こります。
これからの日本では、介護、育児、病気やその他、個人としての社会活動も含めて様々なものを抱えつつも、しかし、会社にも貢献していくという状況が当たり前になると考えています。なので、しっかりと希望を伝えてコミュニケーションしていくことが重要だと思いますね。「私の考えはこうです」ときちんと伝えることで変わるものはありますし、言葉にする中で考えが整理されるといったメリットもありますので、できるだけコミュニケーションを取っていくのが良いと思います。
Q4.グリーフケア(死別経験者への対応)も介護において大事な点だと感じています。このグリーフケアも職場の中で対応すべき範疇なのでしょうか? それとも、何か専門的なサービスに任せるべき部分なのでしょうか?
A4.調査内容にはないことなので、私個人の見解になりますが、「個人が安心して働けるための環境作り」というのは、会社という組織として大事なことだと思います。ですので、介護におけるグリーフ以外でも、例えば、本人や家族が病気で辛い思いをされている場合など、精神面でのケアをする必要性というのはあると考えています。
レポートは、イベント後半のパネルディスカッション「これだけはやっちゃいけない」8年半の介護奮闘生活で気づいた、たったひとつのことに続きます。
サポナビ編集部