【第3部】介護体制を築く上でのポイントと、家族だからこそつまづきやすい壁

【第3部】介護体制を築く上でのポイントと、家族だからこそつまづきやすい壁

2023年5月26日、リクシスは、第5回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。今回のテーマは、家族間コミュニケーションです。遠距離で暮らす高齢の親をもつビジネスパーソンが多い中、今のうちからご家族内で話しておくべきことについて、気になる方も多いのではないでしょうか?

この度は、日本全国でシニアの方々の相談窓口を展開する有識者や介護のプロ、実際に家族間コミュニケーションにおける壁を乗り越えられてきたビジネスケアラーの方をお招きいたしました。70歳以上の高齢なご家族がいらっしゃるビジネスパーソン向けに、今から知っておくべき家族間コミュニケーションの内容やコツについて、徹底解説していきます。

 

<当日のプログラムおよび登壇者>
第1部:「よくある事例からみる、シニアが抱える困りごとと家族関係」
講演者:小番一弘氏(一般社団法人シニアライフサポート協会 代表理事)

第2部:「介護における家族間コミュニケーションで起きやすいトラブル」
講演者:弊社・木場猛

第3部:「介護体制を築く上でのポイントと、家族だからこそつまづきやすい壁」
講演者:室津瞳氏(NPO法人こだまの集い 代表理事)

▼当セミナーのアーカイブ動画はこちら(無料会員限定でご視聴いただけます)
第5回全国ビジネスケアラー会議 ダブルケア

本記事では、第3部講演内容をダイジェストにてご紹介します。

 

講演者プロフィール

室津瞳(むろつ・ひとみ)NPO法人こだまの集い代表理事、株式会社リクシス 介護プロ

介護職・看護師として病院や施設勤務を経て、令和元年5月に「NPO法人こだまの集い」設立。代表理事に就任。自身も、育児と介護の仕事の重なるダブルケアを約8年間経験する。2021年株式会社リクシスに参画。ミッションは、「育児と介護が重なる現役世代が、働き続けられる社会への実現〜多世代が活躍できる仕組みづくり〜」。

著書『育児と介護のダブルケア-事例からひもとく連携・支援の実際-』(中央法規出版)

 

第3部では、NPO法人こだまの集い代表理事である、室津瞳氏にご登壇いただき、『介護体制を築く上でのポイントと家族だからこそつまづきやすい壁』についてお話していただきました。

家族間でのコミュニケーションの取り方やチームを組むメリットなど、実際にダブルケアを経験された室津さんによるアドバイスをお伺いします。

 

室津さんのケース〜仕事・出産:育児・介護・看病の両立〜

本日の講演では、介護福祉士と看護師のキャリアをお持ちの室津さんご自身のケースと実体験に基づく家族間コミュニケーションの仕方について、お話をしていただきました。

室津さんは、7年間介護の仕事に従事した後、看護学校に3年間通い看護師の資格を取得されました。

看護師として病棟に勤務し、結婚して第一子を妊娠。それと同時に、定年退職を迎えた室津さんのお父様が、肝臓の病気で入退院を繰り返すようになられたそうです。

妊娠初期からお父様の入退院のサポートをしながら、無事に第一子を出産された室津さん。要介護2の状態から自立までお父様が回復されましたが、室津さんのお子さんが3歳くらいの頃に、健康診断で、膵臓と肺の末期癌だと分かりました。膵臓癌であったため、お父様自身は自覚症状はなかったそうです。また、余命宣告は1年くらいという見立てでした。担当医師は、室津さんの勤務先の医師であったため、うまく医師とコミュニケーションが取れた点が良かったと室津さんは語ります。

また、室津さんはその頃、第二子を妊娠。そして、お父様の方針もあり家族で話し合いをした結果、在宅で看取りを始めることになりました。積極的な抗癌剤治療を行わず、痛みが出た時に対症療法を行いました。それによって、抗癌剤治療による副作用がなく、健康な状態が少し保たれた点が良かったと振り返ります。また、在宅なのでお父様の好きなタバコや酒もたしなむことができたほか、愛犬に会えるなど、在宅ならではの良さを感じることができました。

そして、いよいよお父様の看取りの状態になった時、介護・看病のキーパーソンであったお母様に癌が見つかってしまいました。お母様は緊急入院し、手術をする必要があるという事態に。そして、お父様が亡くなった頃にお母様が手術を受けています。結果的にお父様は、余命宣告より半年ほど長く生きられました。

室津さんは当時、妊娠初期でつわりもある中、看護師としてフルタイムで勤務し3歳の子どもの子育てもされていました。平日はフルタイムで働き、毎週土日は片道1時間かけて実家に行き、おむつ交換や入院や手術のサポートをしたりと、体力的に最もきつかったと語ります。なかでも大変だったのは、訪問診療や訪問看護の調整。室津さん自身も多忙を極め、心身共に辛い状況の中、無事に第二子を出産されています。

 

介護とは、仕事のプロジェクトと似ている

小平氏(司会進行役・以下敬称略):「室津さんのケースでは、室津さんのお兄さんがご両親と同居されていましたが、家族内の役割分担や、ご両親への意向の聞き出し方などは、どのようにされていたのですか?」

室津氏(以下敬称略):「家族内で先頭に立って話をまとめたのは、私でした。しかし、在宅で看取りをする方針が決まった後、兄弟間でのケアの役割分担をする体制ができるまでは大変でしたね。始めは、お互いに手探り状態で誰が何をするのかなど、モヤモヤした感じはありました。

その中で、私から『チームを組んで、ひとりに負担が集中しないようにしよう』と話しました。『私は妊娠のつわりもあるから体は動かないけど、医療と介護のことは知っているから調整役はできそうだけどお兄ちゃんはどう思う?』と聞いたところ、『じゃあ僕はお金のことをやろう』と言ってくれました。普段兄はビジネスパーソンであり、契約とか書類作成は慣れているので、お金のことや契約関係は兄が担当することになりました。

また、私の夫もさりげなく巻き込んだところで、なんとなく全体の役割が見えてきました。そして、情報を属人化させず、ひとりに負担が集中しないようにするには、どのようにすれば良いか考えた結果、LINEでグループを組むことにしました。些細なことは、ひとりに情報を集中させないで、全部メッセージを使ってオープンにしようということを決めました。

私がやってみて思ったことは、介護は仕事のプロジェクトと似ているな、ということです。情報をフルオープンにして、ひとりに集中させないことで、誰が何をしているのか明確になり、お互い納得感を持って介護のチームを組めたと思います」

 

分かっていたのにお父さんの口座が凍結されて….

小平:「お父様の介護が始まるまでは、家族のコミュニケーションは頻繁に取られていたのですか?」

室津:「実家に行くと、父と一緒にご飯を食べたり、お酒を飲みながら近況報告をすることはしていましたが、私も仕事が忙しいことや家庭もあるので、頻繁にはコミュニケーションを取っていませんでした」

小平:「では、介護がきっかけで、ご兄弟と頻繁に連絡を取り合うようになったということなんですね?」

室津:「そうですね。LINEグループを組んで、一緒に情報交換や情報共有をしながら介護に向き合ったことで、信頼関係を深めていった感じがします」

小平:「今までとは違う家族関係性が生まれるきっかけになった、という感じがしますね」

室津:「そうですね、戦友のような感じですね」

小平:「お母様は、癌が見つかるまではお父様の介護に携わられていたと思うのですが、ご兄弟ではお母様の位置付けはどのようにされていたのですか?また、ご両親の意向はどのように確認されていたのですか?」

室津:「母が入院するタイミングが、父が亡くなる直前だったので、母としては心残りがあったと思います。私たちは『自分の命を優先して治療に専念して欲しい。一旦お父さんのことは私たちに任せて欲しい』と母に伝えました。しかし、ここで問題が起きました。それは、父の口座が凍結してしまったことです。口座は本人のサインがないと凍結してしまいます。凍結しないように意識はしていたのですが、対応する前に父がサインできない状態になってしまい…。

生前、父からは葬儀にお坊さんを呼んでくれと頼まれていたので、予想以上にかかる葬儀費用はどうしたら良いのか、あわててしまいました。幸いにも、別の口座があることを母から教えてもらったので、そこからお金を引き出すことができ、父の葬儀に必要なお金を出すことができましたが、母も自分の命と向き合わなくてはならない時に、病床から指示をもらうことになってしまいました。結果的に、それぞれの役割として、お金に関しては母、私と兄は実行部隊で動くという感じになりました」

小平:「介護のプロでもそのようなことがあるのですね。私たちも認知症のケースでは、親のお金のことを心配しがちですが、末期癌などで在宅で看取る場合には、室津さんのようなケースも想定しなければいけないですね」

室津:これから介護に直面する方や今現在介護に直面されている方は、ひとりで抱え込むのではなく、家族を巻き込んでチームを組んで欲しいと思っています。何のために介護するチームなのか、介護する目的やゴールを決めて、ケアのチームを作ってみて下さい。目標を設定しなかった結果、何のために介護しているのか、あやふやになって兄弟間で喧嘩してしまったという話を聞きます。皆が納得できるように情報共有をしながら、チームの目標を目指して介護に向き合っていただけたらなと思っています」

室津さんが代表理事を務めている「NPO法人こだまの集い」では、育児と介護が重なっているダブルケアの方々が集まり、知恵を出し合うようなカフェや茶話会などのイベントを定期的に開催しておられます。

ご自身のキャリアやダブルケアの実経験も含め、様々なご家族のケースの声を知る室津さんのアドバイスから、円滑な介護環境を生むチーム力は情報共有と役割分担が鍵を握ること、そして、チーム内で介護の目的とゴールを決めることの大切さを教えて頂きました。

▼同イベントの別パートはこちら

会話をするシニア男性と若い男女【第1部】よくある事例からみる、シニアが抱える困りごとと家族関係

【第2部】介護における家族間コミュニケーションで起きやすいトラブルとは

この記事の監修者

サポナビ編集部

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