「最近、物忘れが増えた気がする」「親の様子が少し変わった」——そんなとき、頭をよぎるのが認知症という言葉です。ですが、その前段階にあたる状態がMCI(軽度認知障害)です。
この記事では、MCIの特徴、認知症との違い、原因や検査方法、進行を防ぐための生活習慣について解説します。
MCIは、認知症と健康な状態の中間に位置します。日常生活はほぼ自立して送れますが、記憶や注意力の低下が見られます。厚生労働省は、以下を満たす場合をMCIと定義しています。
早期発見と適切な対策で、健康な状態に戻る可能性もあります。
MCIは、大きく「健忘型(記憶障害が中心)」と「非健忘型(注意力や判断力の低下)」に分けられます。
たとえば同じ話を繰り返す、人の名前や予定を忘れる、計算や料理が難しくなる、趣味や活動への関心が減る、といった症状です。
認知症との大きな違いは生活の自立度です。認知症では食事や入浴などに支援が必要になることがありますが、MCIの人は基本的に自分で行えます。また、MCIでは物忘れを自覚していることが多いのも特徴です。
加齢による物忘れは、体験した内容の一部を忘れる程度で、思い出すことも可能です。
一方、認知症では体験そのものを忘れ、探し物が見つからないと「盗まれた」と思い込むこともあります。進行のスピードも異なり、認知症は加齢による物忘れよりも早く悪化します。
認知症による物忘れ | 加齢による物忘れ | |
体験したこと | 体験したこと自体を忘れる | 体験の一部を忘れる |
学習能力 | 新しいことを覚えるのが
難しい |
変化は少ない |
もの忘れの自覚 | ない | ある |
探し物に対して | 誰かが盗んだと思い込む | 努力すれば見つけられる |
日常生活への支障 | ある | ない |
症状の進行 | 進行する | 極めて徐々に進行する |
出典:政府広報オンライン『もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン』(2021年)
最も多いのはアルツハイマー病で、脳にたまる異常なたんぱく質が原因と考えられています。ほかにも脳血管障害、レビー小体病、前頭側頭型認知症、うつ病や甲状腺機能低下症など、複数の病気が関わる場合があります。
MCIは問診や認知機能検査、脳画像検査などを組み合わせて診断します。代表的な検査には以下があります。
MCIだからといって必ず認知症になるわけではありません。早期発見と生活改善で進行を予防できる可能性があります。
記憶障害に作用する「アリセプト」などが使われることがあります。副作用もあるため、医師と相談しながら進めます。
魚や野菜、果物をバランスよく摂取し、糖質や塩分は控えめに。噛む力を保つための口腔ケアも重要です。
有酸素運動(ウォーキング、ヨガ、水泳など)は脳血流を促進し、脳の活性化につながります。
パズルや計算、読書の要約などで脳に刺激を与えます。趣味や地域活動を通じた交流も有効です。
少しでも違和感を覚えたら、「様子を見る」よりも、医療機関で相談を。今日からできる食事・運動・会話の工夫が、未来の自分と家族の安心につながります。
介護プロ編集部