2023年9月15日、リクシスは、第9回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。
これから高齢社会がより一層加速し直面する「仕事と介護の両立」。現役のビジネスパーソンが突如として介護と仕事の両立の壁に立たされたとき、働き方や介護の方法について、どのような選択を行うべきか悩む声が後を絶ちません。
今回は「親がかたくなにいうことを聞かない、どうするべき?」「子育てしながら親の遠距離介護はできるの?」など、皆さまからお寄せいただいたご質問を各分野のプロから知識や経験をもとにお答えします。
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①仕事と介護の両立支援について(リクシスCCO 木場猛)
②認知症ケアについて(くらしあす代表 坂本孝輔氏)
③育児と介護のダブルケアについて(NPO法人こだまの集い 室津瞳氏) ⇐このページのテーマ
④なんでも質問大会 Q&A(前編)
⑤なんでも質問大会 Q&A(後編)
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▼当セミナーのアーカイブ動画はこちら(無料会員限定でご視聴いただけます)
前回の記事では、木場氏から「仕事と介護の両立支援の制度」や「介護の初動で必要な情報の集め方」、坂本氏から「認知症の人と介護する側が、互いに幸せを感じるための関わり方」について教えていただきました。
本記事では、続いて登壇された、働きながら子育てと介護に取り組むダブルケアラーを支援している、NPO法人こだまの集い代表理事である室津瞳氏のお話をダイジェストにご紹介。
育児や仕事に日々忙しい世代が、介護に直面した際、ダブルケアの状況をどのように乗り越えていくとよいのか。ご自身の経験をもとに培われた「家族や職場との円滑なコミュニケーションをするためのポイント」についても、お話頂いた内容をご紹介します。
室津 瞳(むろつ ひとみ) NPO法人 こだまの集い 代表理事
株式会社リクシス 介護プロ 介護福祉士・看護師
介護職・看護師として病院や施設勤務を経て、令和元年5月に「NPO法人こだまの集い」設立、代表理事に就任。自身も育児と介護と仕事の重なるダブルケアを約8年間経験する。 ミッションは「育児と介護が重なる現役世代が、 働き続けられる社会への実現〜多世代が活躍できる仕組みづくり〜」
共著『育児と介護のダブルケア-事例からひもとく連携・支援の実際-』(中央法規出版)
現在、ご主人と9歳と5歳の2人のお子さんと暮らしている室津さんは、仕事をしながら、介護と子育てが伴走している状況である「ダブルケア」を乗り越えてこられました。
介護と仕事がもっとも大変だと感じたのは、上のお子さまが3歳で第2子を妊娠中、フルタイムで看護師の仕事を行なっていた時期だそうです。
70代のお父さまが末期がんになられたと同時に、60代のお母さまもがんと診断され、両親同時に介護を行う必要がありました。平日はフルタイムで働き、週末は片道1時間かけてご実家に行くという日々が続いたということです。
心労が重なり最もつらい時期だったと語られています。
時系列としては、どのような経緯でダブルケアの状況になったのでしょうか?
室津氏の人生を、仕事・育児・介護という軸で整理してお話いただきました。
7年間介護福祉士として従事した後、看護学校に3年間通い看護師の資格を取得。看護師として病棟に勤務している中、結婚して第1子を妊娠・出産しました。その時にお父さまの介護が始まったそうです。
「父に肝臓や消化器官の病気が見つかり、入退院を繰り返すことになりました。当時は要介護2の状態です。
一時は主治医から余命宣告もありましたが、孫が生まれた喜びなどから、要介護保険をお返しできるまでに回復を遂げました」(室津氏)
お子さまが3歳を迎えた頃、病棟勤務を経て地域の介護に関わりたいという思いから、デイサービスで働き始めたそうです。
その後、室津さんが第2子を妊娠中、お父さまが余命宣告を受けることに。
「父に自覚症状はありませんでしたが、血糖値が高いことから精密検査を行なったところ、末期の膵臓がんと肺がんが判明しました。偶然にも父の主治医は、私が以前勤務していた病院の医師であったため、余命は1年と包み隠さず現在の状態を教えてくれました。
積極的な治療の選択肢は、抗がん剤を使うこと。しかし当時父がお世話になった病院では、抗がん剤治療を行うには入院が必要で、環境が変わることになります。家族で話し合いを重ねた結果、在宅で許す限りの時間を共に過ごすことを決めました」(室津氏)
お父さまが末期がんと診断されてから家族会議で決めた共通ミッションは「自由に暮らし、後悔ないように生きよう」というもの。
「家族は後悔がないように看取りを行うチームである」という共通意識を持って介護を行なった結果、どのように過ごせたのでしょうか。次のように振り返りました。
「父は好きなタバコやお酒を楽しみ、愛犬の散歩にも行っていました。好きなタイミングで孫にも会えて、残された時間を自宅で有意義に過ごせたので良い選択だったと思います。また、お葬式やお墓に対する思いも、生前父に直接確認できたこともよかった点です」(室津氏)
その一方、良かったことも多かったのですが、家族一丸となって行なった介護も、全てがうまくいったわけではなかったそうです。
「父の在宅介護中に母もがんが見つかったときは、介護・育児・仕事が重なり心身ともに大変でタスクが回らないこともありました。例えば父の口座を誤って凍結してしまうなど、全てがうまくいったわけではありません。
介護はとても難しいことです。家族だけでやろうと頑張りすぎるのではなく、プロに頼ることが大切だとダブルケアの経験から学びました」(室津氏)
▼より詳しく室津さんのご経験について知りたい方はこちら
介護体制を築く上でのポイントと、家族だからこそつまづきやすい壁
室津氏が今までダブルケアラーの方と意見交換を行い見えてきた答えと、実体験を通して気づいた3つのポイントをお伝えします。
「子育てと介護については、優先する判断基準が全く違い、非常に葛藤が生じるケースだと思います。
例えば、介護は命に関わるケースも多いですが、子育ては子どものメンタルサポートが必要になります。このように全く違う種類のプロジェクトを同時に回すような感覚に似ているでしょう。
私がダブルケアを終えたときに相談員の方に『あなたは子どもに目を向けてよかったんだよ。なぜなら、親との信頼関係は今まで30年40年築いてきたけれど、子どもとの信頼関係はこれから作っていく必要があるよね。だから子どもに目を向けて、優先した選択は良かったと思うよ』と言われ、「どっちか選んでよかったんだ」と安心した記憶があります。
ただ、価値観はそれぞれ異なるため、これからダブルケアを行う方は究極の選択が生じたときに自分軸があると楽かもしれません。自分にとって大事なのは家庭なのか親との関係性なのか仕事なのかっていうのを見極めていくと良いでしょう」(室津氏)
「育児と介護と仕事を同時に行うためには、タスクの調整能力が必要になります。この時、私が皆さんにお伝えしているのは、介護の部分を1番先に調整していくといいということ。
理由としては 介護のプロには調整役のケアマネージャーがいるからです。介護制度は非常に複雑なので、なるべくケアマネジャーと良好な関係性を築いて調整していくことをおすすめします。
皆さんの仕事のスケジュールやお子さんの行事などの情報も共有しながら、仕事や子育てがしやすくなるためには介護のどんなサービスを導入していくべきか相談してみると、ダブルケアもうまく進むと思います」(室津氏)
「上司に介護経験がないと、相談しても介護の大変さが伝わりにくく困っているという、ダブルケアをされている女性の管理職の方の声をよく伺います。
上司との交渉の際、上司が大事にしていることを理解することはもちろんのこと、 “介護と育児と仕事が重なったときにできること、できないこと”を明確に伝えることが大切です。
家庭の現状をオープンにしながら、感情を挟まず事実ベースでわかりやすく話すと、上司も話を聞いてくれるというケースも多く、良い方法だと思います」(室津氏)
▼より詳しく、上司とのコミュニケーション方法について知りたい方はこちら
子育て・介護の「ダブルケア」と、仕事の両立を目指すときの上司への伝え方とは?
ダブルケアを行なっている方は、介護や仕事など全てのことに力を入れてしまうと、いつの間にか心身が疲れてしまいます。
どこに重きを置くかはそれぞれ自由で、どの選択をとっても正解や間違いはありません。
周囲の人と上手にコミュニケーションをとることが、介護・仕事・子育てをスムーズに進めるための鍵になることを教えていただきました。
また今後、当セミナー内だけでなく、仕事と介護の両立に関する総合情報サイト「ライフサポートナビ」でも、ダブルケアについてのさまざまな事例をご紹介する予定です。これから介護を始める方はもちろん、現在介護中でお悩みの方もぜひ活用されてみてください。
サポナビ編集部