高齢者の方の転倒は、骨折や頭部外傷に繋がる可能性が高く、「たかが転倒」とならない場合が多々あります。若い頃と比べて回復に時間がかかるため社会復帰も時間を要し、その結果、介護が必要な要介護状態になることもあります。さらに、重症化すると寝たきりや廃用症候群になり、生命に関わるリスクがあることから、「高齢者の転倒は危険」とされています。
厚生労働省の「国民生活基礎調査(2019年)」によると、要支援・要介護の方で介護が必要になった主な原因として「骨折・転倒」は全体の第4位で、12.5%を占めていると報告されています。これは、認知症(17.5%)、脳血管疾患(16%)、高齢による衰弱(12.8%)に次ぐ数字です。
たった一度の転倒によって寝たきりとならないようにするために、高齢者ご本人だけでなくご家族の方も協力や注意力を持って転倒予防を心がけることが重要です。
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高齢者の方が転倒する理由は、様々です。加齢による身体機能や筋力の低下だけでなく、薬の副作用によるふらつきや滑りやすい床などといった服薬状況や周囲の環境が、転倒の原因になることもあります。
高齢者が転倒する理由は大きく分けて、加齢による身体機能の低下などの内的要因と、生活する環境による外的要因の2つがあります。
転倒の内的要因は、主に以下の5つです。
高齢になると、筋力の低下やバランス障害による転倒が多くなります。また、視力障害によって足元の段差に気付かず、転倒するケースもあります。さらに、関節の硬さや姿勢の変化によって、反応が鈍くなることも転倒の要因です。薬剤を服用している場合は、夜間のふらつきなど薬の副作用が転倒の要因になることもあります。
転倒の外的要因は、自身が履いている靴や、滑りやすい床、つまずきやすい段差などの環境的な要因から起こります。
足が上がりにくい重たい靴やサイズの合っていない大き目の靴は、つまずきやすくなります。また、自宅の小さな段差や階段、室内の電源コード類なども転倒の要因に。十分な明るさがない室内や滑りやすい床、手すりがない環境でも、転倒のリスクが上がります。
外出時においても、雨の日には地面が滑りやすく、不整地では歩きにくいため危険です。
このように、高齢者自身の内的要因に、周囲の外的要因が組み合わさることで、転倒の危険が増加してしまうのです。
高齢者が転倒しやすい場所は住宅です。東京消防庁の令和元年のデータによると、高齢者が転倒する場所は「住宅等居住場所」が全体の56%と最も多くなっています。また、その中でも屋内で転倒する高齢者の割合は9割です。さらに、屋内においては、居室や寝室で転倒するケースが最も多くなっています。
では、以下に高齢者が転倒しやすい場所とその対策方法を記載します。
場所 | 主な転倒理由 | 対策 |
居室 | ・床のコードに引っかかって転倒
・床の段差につまずいて転倒 ・床のカーペットが滑って転倒 |
・コードは動線を通らないように壁側を通してまとめる
・段差がある場所には手すりやスロープをつける ・カーペットの下には滑り止めをつける |
寝室 | ・ベッドからの転落
・夜間のふらつきによる転倒 |
・ベッドを壁側に設置
・低床ベットにする ・ベッドに手すりを設置する |
浴室 | ・浴槽内で滑って転倒
・浴室内で滑って転倒 ・のぼせてしまって転倒 |
・浴槽内には滑り止めを設置
・浴室内に手すりを設置 ・長風呂をしない |
玄関 | ・上り框でバランスを崩して転倒
・靴の着脱時に転倒 |
・上り框が高い場合は踏み台を設置
・椅子に座って靴の着脱を行う |
階段・廊下 | ・足元の物に引っかかって転倒
・スリッパで滑って転倒 |
・動線には物を置かない
・スリッパや靴下など滑りやすいものを履かない |
高齢者の転倒を防止するには、日頃のちょっとした心がけや、軽い運動や体操が良いとされています。軽い運動や体操をすることで、身体機能の維持だけでなく認知機能の低下も併せて予防できます。
その他、栄養バランスの取れた食生活を送ることや福祉用具の使用など、高齢者の転倒を予防する方法は様々です。高齢者の方の状況やご家庭の環境に合わせ、可能な限りの転倒事故防止を試みてみましょう。
まずは、生活環境の改善ができる箇所から対策を行いましょう。たとえば、自宅内の動線につまずきやすい物やコードがあると引っかかって転倒する危険があるので、動線内には床に物を置かないように心がけ、視界が暗くならないよう室内の明るさも保ちましょう。
滑りやすいマットの下には、滑り止めをつけるなどの転倒予防対策を。浴室や段差など転倒の危険が高い場所には、手すりを設置するなどの住宅環境を整えることも大切です。
要支援・要介護の認定を受けた方の場合は、介護保険を利用して住宅改修(介護リフォーム)や福祉用具(工事と伴わない手すり)のレンタルが可能です。自己負担額を減らせる介護保険を有効に利用し、転倒予防に努めましょう。
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充分な栄養が取れていないと、全身の筋力が低下するため転倒の危険も高まってしまいます。栄養バランスのいい食生活を送ることは、転ばない体づくりの基礎となります。
タンパク質やカルシウム、炭水化物やビタミンなどをバランスよく摂取し、筋肉維持や丈夫な骨づくりを心がけていきましょう。
食事だけでなかなか栄養摂取ができない方には、サプリメントやバランス栄養食などを使うことも良いでしょう。
筋力を養う適度な運動や体操をして、転ばない体づくりをしましょう。普段から運動をあまりしていない方は、運動を始めることに抵抗がある方もいると思います。そのような場合は、ジョギングやラジオ体操など簡単に始められる運動から始めましょう。
転倒予防には、体幹を使った全身トレーニングや、足を鍛えるウォーキングが効果的です。ほかにも、自宅でできるトレーニングや、椅子に座ってできる体操などがあります。簡単な運動で良いので、自分にあった無理なく続けられるメニューを選ぶことが大切です。
外出時には、建物の設備や周りの人・物、天候など環境によって転倒の危険性が増加します。雨の日には、マンホールの蓋やグレーチング、タイルの床など滑りやすくなるため、普段よりも注意が必要です。
また、段差が多い場所や整備されていない地面では、足元が安定せず危険です。転倒防止策として、日常的に段差が少ない平坦な道や歩き慣れた道を選びましょう。
歩行に不安がある方は、杖を使用したり滑り止め付きの靴を使用するなど、福祉用具の使用も検討してみてください。
高齢者の転倒を予防するためには、高齢者自身の内的要因と、自宅や外出先での外的要因に注意する必要があります。
筋力低下やバランス障害など内的要因への予防策は、身体機能を維持する運動や体操など転ばない体づくりをすることです。手すりの設置、床の段差対策、床の滑り止めや障害物の撤去などの外的要因は、日々の心がけや環境整備することで予防をすることができます。
転倒防止策として、介護保険サービスを利用した住宅改修や福祉器具のレンタルを申請したい場合は、ケアプランが必要となりますので、まずはケアマネジャーへ相談を。
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。