老老介護とは「65歳以上の高齢者が、自分と同じ65歳以上の高齢者を介護している」状態のことを指します。
これは夫婦だけに限らず、親子や兄弟・姉妹の間でも起こり得ます。65歳以上の子供が親を介護している場合や65歳以上の兄弟・姉妹が介護する場合など、様々な間柄での老老介護が存在します。
また、老老介護と併せて社会の課題となっているのが、認認介護(にんにんかいご)です。認認介護は「認知症の高齢者が認知症の高齢者を介護している状態」のことで、老老介護よりも事態は深刻です。認知症の方の増加に伴い、認認介護も増加しているのが現状です。
こうした老老介護や認認介護の両親がいる場合、同居・別居に限らず、現役世代である支援者(介護家族・ビジネスケアラー)にも大きな負担や不安がかかります。
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厚生労働省の調査データをもとに、高齢者世帯での老老介護の実態を見ていきましょう。
高齢者世帯ではどのくらいの割合で老老介護、超老老介護が行われているのか、要介護者と介護者の年齢はどれくらいなのか、その推移を調査したものが、以下のグラフです。
出典:厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況 介護の状況」
※2016年の数値は熊本県を除いたものです。
現在、4人に1人が高齢者の日本では、老老介護の人口は右肩上がりで増え続けています。
介護者と介護される側の両方が75歳以上の場合を超老老介護と呼びますが、超老老介護も今後さらに増えていくと予想されています。
2013年以降、65歳以上の要介護の方がいる世帯の約半数以上が65歳以上の同居者がいる老老介護であることが分かります。
なぜ、老老介護が起こり、また増え続けているのでしょうか。原因はひとつではなく、様々な原因が絡み合っています。老老介護が増加する原因と背景について考えてみましょう。
出典:厚生労働省「健康寿命の令和元年値について 平均寿命と健康寿命の推移(2019年)」
医学の進歩や生活環境の変化などにより、平均寿命と健康寿命は年々延びてきています。平均寿命から健康寿命(介護なしに日常生活を送ることができる期間)を引いた年数が介護が必要な期間となりますが、平均寿命が伸びた分、介護を要する年数も長期化していきます。
長寿高齢化により、「親が90代、子供は70代」といった老老介護も珍しくなくなってきているのです。
介護サービスなど、何かしらのサポートを利用するには費用がかかります。保険が適用になるとはいえ、一定の費用はかかってくるため、経済的な余裕がないと介護サービスを使わないという選択をする方も多いでしょう。その結果、家族が介護することになるため、老老介護にならざるをえない状況が生じてしまうのです。
子供や身近な人に介護のことを相談しづらいという状況も、老老介護が増える原因と言えます。介護を必要とする年齢の親の子供たちもまた、結婚や出産、子育てなどお金がかかり、忙しい日々を送っている方が多いでしょう。そのため、親は子供に迷惑をかけまいと、なかなか相談ができず、ひとりで、または夫婦(親同士)で抱え込んでしまうというケースも多いのです。
高齢者の方の中には「介護は家族ですべきもの」という昔からの固定観念を持つ方も多く、第三者のサポートや介護サービスを受けるのに抵抗がある方もいらっしゃいます。また、他人の世話になるのがいや、排泄や入浴などを他人にしてもらうのが恥ずかしいという感情がある方も。そのため、介護サービスを利用せず、家族だけで抱え込んでしまい、老老介護へと繋がる環境が出来上がってしまいます。
老老介護には、通常の介護ケースと異なる問題点やリスクがあります。具体的な問題点を確認し、対策に繋げていきましょう。
介護は入浴や排泄などで要介護者の体を持ち上げたり動かしたりしなくてはならず、とにかく体力が必要です。特に老老介護の場合、それを高齢者が行うことは非常に困難で、要介護者も介護する側も双方が疲弊してしまい、共倒れになるという問題があります。
頼れる人が周囲にいない老老介護の場合、介護だけに専念しがちとなり、社会的つながりが減ってしまうことで生じるリスクがあります。
これまで解説してきた老老介護の問題点である、体力的・精神的負担、社会的繋がりの減少は、より深刻な認認介護へ進んでしまう可能性があります。認認介護では、特に下記のような安全面での大きなリスクを伴います。
現在は残念ながら、老老介護に特化したサービスや行政のサポートはありません。
しかし、今ある介護サービスをうまく活用することで、老老介護における負担の軽減をすることができます。家族だけで抱え込まず、無理なく介護できるように介護サービスを有効活用していきましょう。
介護のプロへ相談することで、具体的な解決への道を示してくれます。老老介護で困った時には、以下の機関へ積極的に相談してみましょう。
・地域包括支援センター
全国の自治体内に複数箇所設置されています。高齢者の介護、医療、住まい、生活支援などのサービスを提供する機関です。
・ケアマネジャーや居宅介護支援事業所
要介護1以上に認定された方は、居宅介護支援事業所に相談可能です。居宅介護支援事業所にいるケアマネジャーへの介護相談や、介護サービス事業所との連絡調整の依頼ができます。
・病院の相談室
病院への相談もひとつの手です。病院にいる医療ソーシャルワーカー(MSW)などの専門家が、介護について相談に乗ってくれます。かかりつけの病院で介護について相談できるか、確認してみましょう。
介護保険適応外のサービスの利用も検討してみてはいかがでしょうか。介護保険外サービスは、要介護認定を受けていなくても利用可能です。
介護保険では、同居家族がいる場合に生活支援サービス(買い物、掃除などの家事援助)を受けることができませんが、介護保険適応外のサービスには、以下のような便利なサービスが数多くあります。
こういったサービスを活用することで、老老介護の負担が軽減されるでしょう。
施設へ通ったり、自宅にいながらでも受けられる介護保険サービスを利用してみるのもいいでしょう。要介護者、介護者ともに体力的、精神的負担を減らすことができます。
・通所介護(デイサービス)
施設への入居は不要。施設へ通い、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練を日帰りで行えます。施設内で楽しく過ごすための、レクリエーションやアクティビティのプログラムも用意されているため、他者との繋がりをもつことができ、孤独感防止にもつながります。
・通所リハビリテーション(デイケア)
施設への入居は不要。施設へ通い、医療的ケアや専門職のリハビリをはじめ食事・入浴などの生活支援を日帰りで受けることができます。リハビリで体を動かしたり、利用者同士でのコミュニケーションも取れるため、心身の健康維持にも役立ちます。
・短期入所生活介護(ショートステイ)
最短1日〜最長1ヶ月で施設へ入居し、介護や生活支援、機能訓練のサービスが受けられます。ある程度まとまった期間で入所できるため、支援者(介護家族・ビジネスケアラー)にとっては、大きな介護負担の軽減となります。
・訪問サービス(訪問介護・訪問入浴介護など)
ホームヘルパーに自宅に来てもらい、入浴、排せつ、食事等の介助などの身体介護をはじめ、調理、洗濯、掃除等の家事などの生活援助、通院時の外出支援サービスを受けることができます。
訪問入浴介護は、浴槽を自宅で持ち込み、専門スタッフ3名により入浴介助をしてもらえます。
体力的な負担が大きい老老介護において、とても役立つ介護サービスです。
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介護度が高くなった場合や日常的医療ケアが必要な緊急度が高い場合、認認介護となった場合は、介護施設への入居を検討しましょう。介護保険が適用される入所費用の安い「特別養護老人ホーム」をはじめ、夫婦で入居可能な介護付き有料老人ホームなど、現在は様々な入所施設の選択肢があります。
老老介護で共倒れになる前に、早めに準備しておくことが大切です。
今後日本では、ますます老老介護・認認介護が増えていくと予想されます。
老老介護・認認介護では健康面や安全面でのリスクも高いため、家族だけで抱え込まず、自治体や第三者への相談をすることが大切です。思い詰めてしまう前に、今回解説した様々な対策があるということを知っておくことで、気持ちも楽になるのではないでしょうか。
介護サービスを積極的に利用し、できるだけ負担を減らしていく道を探していきましょう。
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遠隔でも介護体制を築いたビジネスケアラー経験者から学ぶ、仕事と介護の両立術とは
金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。