人は誰でも、年齢を重ねていくと「もの忘れ」が多くなるもの。
ですが、ご家族のもの忘れがひどくなってきた時に「もしかして認知症?」と考えてしまう時もありますよね。
もの忘れと認知症はまったく異なる性質を持っています。認知症は早期発見が大切なので、まずは違いを理解しておくことが必要です。
今回は、もの忘れと認知症の違いについて解説していきます。
もの忘れと認知症、それぞれどういった状況のことを言うのかについて解説していきます。
もの忘れは加齢とともに誰にでも起きることです。
例えば「昨日の朝に何を食べたかわからない」と親御さんが言っている場合、そもそも食べたかどうかを覚えているか確認しましょう。
「食べたことは覚えているけど、昨日の朝にごはんを食べたけどメニューを覚えていない」という場合には、認知症の可能性が低くなります。
何か体験したことの一部分だけを忘れてしまうというのが、加齢によるもの忘れの特徴です。
自分が忘れているという自覚があるため、加齢によるもの忘れは日常に大きな支障をきたすことはあまりありません。
認知症とは、脳の細胞が死んでしまったり働きが悪くなってしまったりすることで様々な障害が起こり、日常生活に支障が出てくる状態のことをいいます。
認知症を引き起こす病気でもっとも多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」と呼ばれる病気で、アルツハイマー病、前頭・側頭型認知症、レビー型小体病などがそれにあたります。
続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などによって神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果一部分の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れたりしてしまう脳血管性認知症です。
認知症の症状はさまざまなものがあり、もの忘れはその一部でしかありません。
認知症によって引き起こされる主な症状は下記のとおりです。
認知症の症状としての「もの忘れ」は、体験そのものを覚えておくことができません。そのため、さっき食事をしたばかりでも「今日はまだ何も食べていない」と言われてしまうことがあります。
ご本人には食べた体験の記憶がないので、「食べたよ」と伝えると怒ってしまう可能性もあります。
加齢によるもの忘れなのか、認知症の症状としてのもの忘れなのか、最初は区別がつきづらいかもしれません。ですが、症状が進行してくると違いが出てくるようになります。
加齢なのか認知症なのか見分けるポイントとして、それぞれの特徴を押さえておくと良いでしょう。
加齢によるもの忘れ | 認知症 |
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ご家族がもの忘れをしている時に、もの忘れの自覚があるかないか、体験そのものを覚えているかどうかということを確認するとわかりやすいかもしれません。
認知症の場合には、体験そのものを記憶していませんので、毎日同じことを繰り返し尋ねる、もの忘れを指摘すると怒ってしまう、ということが起こります。認知症によるもの忘れは、ご本人もご家族も生活に支障が出てきます。
認知症において特に大切なのは、早期発見をすることです。症状が出始めた頃にはすでに脳への損傷が激しい状況だと言われています。
手遅れにならないようにするためには、認知症予備軍と言われている「MCI」という段階での発見が重要です。
厚生労働省では、MCI(軽度認知障害)を以下のように定義しています。
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早期発見できれば、進行の速度を抑えられたり、低下した機能を回復できるなどの可能性があります。
現在の医学では認知症を根治する治療は見つかっていません。しかし、アルツハイマー型認知症などは早い段階であれば進行を遅らせる薬物治療もあります。
ご家族のもの忘れについて、少しでも「あれ?」と思うことがあれば、ぜひ一度かかりつけ医に相談してみると良いでしょう。
もの忘れだけで相談するのも気が引ける、という方は、もの忘れ外来を利用してみるのも良い方法です。
もの忘れ外来がない、なかなか病院に行く時間を持てないという方でも、認知症の特徴を理解し、ご家族で注意して見ておくことも重要です。
どんなところに気をつけて見ていればいいのか、あらかじめ確認しておきましょう。
単純なもの忘れだけであれば、特に心配する必要はありません。
ご家族のもの忘れの特徴を理解し気にしておくことで、認知症を早期発見できる可能性が高まります。
認知症の疑いがある場合には、早めに医師へ相談しましょう。
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岩瀬良子(いわせ・りょうこ) 介護支援専門員(ケアマネジャー)・介護福祉士 京都大学卒業後、介護福祉士として、介護老人保健施設・小規模多機能型居宅介護・訪問介護(ヘルパー)の現場に従事。その後、育休中に取得した介護支援専門員の資格を活かし、居宅ケアマネジャーのキャリアを積む。「地域ぐるみの介護」と「納得のいく看取り」を志している。