#仕事と介護の両立

Withコロナ時代、従業員を介護離職させないマネジメントリテラシーとは ~リモートワークで家族ケアと仕事の両立はすべての人の問題に~

従業員を介護離職させないマネジメントリテラシーその2 #仕事と介護の両立

リモートワークがニューノーマルとなり、多くのビジネスパーソンが家族との向き合い方を大きく変えています。在宅勤務が増えることで、仕事の仲間と過ごす時間よりも家族と過ごす時間の方が長くなり、仕事よりも自分の生活を重視するという人が増えています。

こうした、働き方の地殻変動を目の当たりにして、企業経営者や人事・総務担当者、すべての管理者・監督者も考え方の変革を迫られています。自社の従業員・部下がこれまでのように「会社」ではなく「生活」を基軸にしながら、「自律的に仕事と家族ケアの両立マネジメント」を行う時代にシフトしていることを理解し、新しいマネジメントリテラシーを構築していくことを求められるのです。

このために留意しておかなければいけないのが、次の2点です。
(1)リモートだから仕事と家族ケアの両立が楽になるのではないということ
(2)マネージャーが部下の初期行動をどれだけ支えられるかが重要であることこの二つの前提をしっかりと理解した上で新時代のマネジメントを考えていかなければなりません。

リモートワーク時代の必須マネジメントリテラシー

(1)の「仕事と介護・家族ケアの両立が難しい点」については、ロックダウンの時に霧が晴れるように明確になりました。ロックダウンによって育児や介護が楽になったかというと、むしろ逆であることがわかったのです。経験した人は自宅で仕事をしながら育児や介護といったケアをすることがいかに大変で、まったく仕事にならないことを実感できたはずです。幼稚園が休園になって小さなお子さんが家の中にずっといるだけで、その場は戦場のようになってしまいます。そういう場で仕事に集中しろといっても酷な話です。

もしくは、デイサービスの施設が休みになった時に介護が必要な老親のケアをしながら質の高い企画書を作成することを想像してみてください。とんでもなく難しいと感じられるはずです。在宅であろうがなかろうが仕事をしながら、負荷の高い家族ケアや介護を毎日自力で行うことはほぼ不可能です。

仕事と介護・家族ケアを両立させるためには全てを自力で解決しようとせず、ある部分については自分以外のプロに依頼するしかないという事実を誰もが認識すべきです。

ロックダウンによって極めて明確になったこと

(2)の「介護の初期行動を支えることが大事」という認識は、大介護時代の今、極めて重要な考えになっています。例えば、部下の親が倒れて介護の必要が生じた時、上司がどれだけ部下の初期行動を支えることができるかが介護離職の防止に直結します。介護の当事者にとって初動時は一番辛いし、いろいろと迷う時期でもあります。このまま会社を離れて実家に帰るべきかどうか、誰に相談すべきか、実家に帰った介護の素人に何ができるのかなど、悩みは尽きません。部下がこうした状況に陥った時に、その道のプロに頼れるように上司である管理者・監督者が情報を示せるかどうかが決定的に重要になります。一例を挙げれば、マネージャーが地域包括支援マップを知っているかいないか、それを部下にアドバイスできるかどうかでその後の部下の負担は全然違ってくるのです。

リモートワークをしている従業員の遠方に住む親御さんの体調が急激に悪化したとしましょう。それに対して上司は、どのようなアドバイスをすればいいでしょうか?「リモートワークしているから何とかなるよね。実家に帰ってそばに付いていてあげなさい」といったアドバイスは大きな間違いです。こんなに便利なサービスやツールがあると教えられるかどうか、どれだけ選択肢を持っているかが重要になってきます。上司は必ずしも介護や育児に詳しくなくても構いません。これからの上司は、困った時の情報ハブになることが求められているのです。

リモートワーク中の在宅介護は常に正しいのか

「仕事」より「生活」を重視する時代に変化

新型コロナウイルスの感染拡大によって、リモートワークが普通の状態、つまり「ニューノーマル」となりました。これによって「仕事」より「生活」を重視する人が増えています。経営者や管理職からすれば仕事にもっと集中してほしいということになるかもしれませんが、時代の趨勢は家族や生活重視の方向です。こうした傾向がある中で従業員の介護離職を防ぐためのマネジメントリテラシーはどうあるべきかを明らかにするために、様々な調査結果のデータを示しながら、
今起こっている変化の詳細を見ていきましょう。

まずはビジネスパーソンたちの意識の変化についての興味深い調査結果から紹介します。

感染拡大前と比べると、50%の人が「生活を重視するように変化した」と答えています。仕事から生活への意識変化は、年代層にあまり関係なく進んでいることがわかっています。これまで仕事を優先してきた世代である50代、60代も40 %以上の人が生活を重視するように変わったと答えているのです。

仕事より生活を重視

家庭内の役割分担も変わる

家族との時間をより重視する考えが広がると共に、家族ケアに関する役割分担も家庭内で見直され始めています。以前より工夫するようになったと言う人が増えており、67%の人がその工夫が継続すると思っています。

特に家事・育児については、これまでは女性の方が男性の6倍くらい家事をしているというデータがありましたが、新型コロナ以降、この状況が大きく変わっています。

多くの家族で様々なケアの分担が変わったと同時に、男性側の負担が増えたという事実があるのではないかと指摘されています。男性はリモートワークが増えることによって精神的ストレスが上がっていますが、それに加えて家事・育児の負担も増えているということになります。

性別役割分担の見直し

親について考える時間が増加

Withコロナの時代には、高齢の親について考える頻度も急激に増えています。「かなり考えるようになった」(34%)と「多少考えるようになった」(40%)を合わせると、ほぼ7割にも上る人が自分の親についてよく考えるようになったと答えているのです。

新型コロナ以前は親のことをあまり考えていなかった人たちが、在宅勤務が増え家族と向かい合ったり、家族のことを考えたりする機会が増えると、必然的に、自分の親がどうしているのかと気になってきます。

高齢の親への負担

新型コロナはダイバーシティも変えた

新型コロナが引き起こしたパラダイムシフトは、ダイバーシティの文脈で見ることも必要です。かつては家族の介護やケアという制約を抱えている人は、一握りの社員でしたし、会社側もそれを前提に支援や職場環境の整備を考えていました。ところが新型コロナによって介護や家族ケアは一部の人だけではなく、すべての人に起こり得るものになったのです。

こうした変化もあって、「仕事を前提に生活を調整する」という考え方から「生活を前提に仕事の調整をする」という考え方が多数派になっています。コロナ以前と以降では価値感が逆転したわけです。

パラダイムシフト

介護は20代、30代から始まっている

さらに、知っておくべきことは、親の介護は40~50代の社員の問題ではなく、20代、30代から始まっているという事実です。親の介護は40代からという常識はもはや捨てなくてはいけません。背景には、晩婚化と第一子の出産年齢が上がっていることが挙げられます。20代社員の親は意外に高齢です。同時に、年齢別人口が逆三角形の構造になっていることからもわかるように、20代、30代は孫として祖父母の介護を抱えているケースがあります。中には、自分の親と祖父母二
組で合計6人の介護問題を抱えている人さえいます。

20代、30代は、精神疾患を発症する危険性の高い世代でもあります。精神疾患の注意年齢であるこの世代に、親と祖父母の介護問題がのしかかろうとしている事態は深刻です。また、高齢社員もコロナの影響で運動不足、体調不良が増えています。自分自身が要介護者になるリスクがかなり上がっています。いずれにしても今後、介護問題を抱える従業員が恐ろしい勢いで増えていくことは間違いありません。経営者も人事・総務関係者もこうした背景を念頭に仕組み作りを進める必要があります。

介護は2~30代からはじまっている
高齢者の運動不足

リモートワーク時代のダイバーシティマネジメントとは

では、リモートワーク時代のダイバーシティマネジメントとはどのようなものになるでしょうか。

人事部はこれまで一部の制約を抱えた社員を想定し、「出勤」もしくは「休み」を選べるような両立支援をしてきました。ところが、これからは世代を問わず、すべての従業員を対象とした支援が必要になってきます。具体的には、全従業員に対して、仕事と家族ケアを両立させるためのリテラシーを個人レベルで上げていく支援ということになります。

イメージが湧きやすいように言うと、かつてはマネージャーが制約を抱えている社員に対して声を掛け、その社員の状況を直接把握して、必要な支援をしてきたわけです。ところが、リモートワーク化が進むと同時に、すべての部下の面倒を見なければいけないことになると、今後はピンポイントで直接的な支援はほぼ不可能と考えるべきです。ですから、リモートワーク環境にいる従業員が突発的に家族ケアをしなくてはならなくなった時に、自らが自律的に対応できるように、全社員の「両立」リテラシーを底上げする仕組みと体制を作る必要があるのです。

こういう仕組みと体制ができていれば、突然、介護や家族ケアの必要性が生まれた時に、従業員は自分で、頼るべきところにたどり着くことができます。

ダイバーシティマネジメント

リテラシーの差が両立負荷を変える

これからは、リテラシーが低いと仕事とケアを両立させるための負荷が自分に重くのしかかる時代です。逆に、リテラシーがあれば介護や家族ケアを支援するツールやサービスにアクセスできますし、上手に使いこなせれば両立の負荷を大きく削減できます。

両立負荷を減らすために知っておくべきことは大きく次の4つです。
(1)頼れるプロがどこにいて、どうアクセスすればいいか
(2)活用できるサービスがどこにあり、どう利用すればいいか
(3)支援をしてくれる組織や人がどこにあり(いて)、どうすれば支援を受けられるか
(4)何を自力で頑張りすぎてはいけないか(頼るべきことは何か)

従業員本人がこうしたリテラシーを持っているかどうかが、いざという時に大きな差になります。ただし、従業員全員のリテラシーを一様に高めることはなかなか難しく、一筋縄ではいきません。全社員に教育を浸透させるためにも、まずは管理者・監督者への教育体制を整え、マネジメント層のリテラシー強化を図ることが先決になります。マネージャーたちが「情報のハブ」兼「先生」となって下へと浸透させていくのです。

リテラシーの差で実際に起きたこと

Withコロナの時代はリモートワーク化が進み、仕事と家庭の境目が見えなくなります。こうした時代、企業は以下の4項目を重視して、従業員支援の仕組み作りに取り組む必要があります。

(1)従業員の健康に配慮した投資を重視すること。従業員の健康を守るための投資も、介護や家族ケアに配慮したダイバーシティマネジメントへの投資も、どちらも企業業績にポジティブなインパクトを出せる投資であることをハッキリと認識すべきです。
(2)リテラシーがない場合の影響を把握すること。リモートワークが普及することで様々な問題が顕在化しています。もし従業員のリテラシーがない場合には大きな健康上の問題になり得ることを認識する必要があります。その上でこの問題を回避・コントロールする仕組み・体制作りがこれまで以上に重要になっています。
(3)リモートワークによって従業員は家族ケアへのマインドシェアを高めていること。介護問題も家族ケアの問題も一部の社員だけのものではなく全社員に共通の問題となっています。従業員一人ひとりが自律的に仕事と介護・家族ケアを両立できるように支援する体制が必要になっています。このためにも管理者・監督者層による部下の支援・アドバイスが、これまで以上に重要になっています。
(4)カギを握るのは、管理者・監督者のリテラシーの向上であること。従業員全員のリテラシーを上げる前段階として、管理者・監督者がまず健康や多様性のリテラシーを向上させることが必要です。企業経営者や人事・総務担当者は自社のマネジメント層に対してきちんと教育できる仕組みを作ることと教育コンテンツを届ける必要があります。ある意味、自社内に健康経営の先生を育てるような考え方が求められています。

仕事と家庭の境目

必須リテラシーの代表例=地域包括支援センターの探し方

最後に、典型的な事例を紹介しましょう。

介護の現場において、介護を支援するプロ、特に地域包括支援センターは、当事者にとって大きなより所です。ところが、介護問題が発生した従業員がこの地域包括センターを見つけられていません。

介護問題が発生した部下に対して、上司がこのセンターの存在を教えられるかどうか。初動時の動きがその後の部下の状況を大きく変えます。部下に、あなたの親御さんの家の近くに地域包括支援センターがあると初動で言えるかどうか。さらに言えば、会社として、従業員がいざ介護と
なった時に地域包括支援センターの情報にアクセスできる仕組みを作れるかどうかが決定的に重要です。

該当する地域包括支援センターを探すサービスは既にあり、無償で提供されています。弊社が提供する無料ネットアプリでは99.9%の確率で近くの地域包括支援センターのトップ3を見つけて提示します。Withコロナ時代のマネージャーが知らなくてはいけない必須リテラシーの代表的な例としてぜひ覚えておいてください。

いちはやくプロの支援を得る

総論

新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、ビジネスの現場ではリモートワークが新しい仕事の様式、すなわち「ニューノーマル」となっています。経験者の誰もが感じているように、リモートワークは、ビジネスパーソンの生活スタイルと仕事への考え方を大きく変えています。このリポートでは豊富な実証データと共に、このパラダイムシフトとも言うべき大変革を浮き彫りにし、Withコロナ時代の新しいマネジメントリテラシーを明らかにしていきます。

(1)【リモートワーク時代、従業員を支援する必須マネジメント手法とは】
リモートワークがニューノーマルとなることによって、従業員の運動不足やコミュニケーション機会の極端な減少による健康リスクの増大が新たな問題として浮かび上がってきました。従業員の健康リスクを低減するための新しいマネジメント手法と管理者教育の重要性を浮き彫りにします。

(2)【Withコロナ時代、従業員を介護離職させないマネジメントリテラシーとは】
仕事と家庭の境目がなくなることで、従業員による親族の介護や家族ケアの問題はよりいっそう厳しいものになっています。リモートワークが増え家族と過ごす時間が増加したことにより、介護や育児は一部の社員だけの問題ではなくなりました。企業としては、こうした状況下でどのような対策を打てばいいのかを見ていきます。

この記事は専門家に監修されています
 介護プロ
木場 猛(こば・たける)

株式会社チェンジウェーブグループ リクシスCCO(チーフケアオフィサー)
東京大学文学部卒業。2001年の在学中から現在まで22年以上にわたり、介護士・ケアマネージャーの現場職として、2,000世帯以上のご家族を担当し、在宅介護、仕事と介護の両立支援に携わる。
著書:『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書(日経クロスウーマン)』https://amzn.to/3ryjZNg

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