2023年12月21日、リクシスは、第13回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。
これから高齢社会がより一層加速し、仕事と介護の両立が当たり前の時代がやってきます。本オンラインセミナーは、高齢化の流れが加速する日本社会において、現役世代として働きつつ、同時にご家族の介護にも携わっている「ビジネスケアラー」の方々とその予備軍となる皆様に向けたセミナーです。
今回のテーマは「介護準備」。
年末年始やお盆の季節など、普段は離れている親御さんに会われる方も多いのではないでしょうか。
実家に帰るタイミングでやってみてほしいチェックリストを中心に、家族が判断を迫られた時のために考えておくべきことや、自分史を通じて状況改善された事例などを解説します。
今はまだ元気だとしても、これからのことを考えてどんな介護準備をすればいいのか分からなくて不安という方にも、ぜひ知っておいて頂きたい内容です。
この記事では、介護プロ木場氏による講演をもとに介護に関わる家族の状況をどのように確認すればいいかいざという時のシュミレーションのやり方、親御さんの様子を確認できるチェックリストのご紹介などのテーマでまとめています。
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①「介護準備の手順・前編」⇐このページのテーマ
②「介護準備の手順・後編」
③「写真から知る親のこと・佐々木家の場合」
④「Q&A編」
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木場 猛(こば・たける) 株式会社リクシス CCO(チーフケアオフィサー) 介護福祉士、介護支援専門員
介護福祉士 介護支援専門員
東京大学文学部卒業。高齢者支援や介護の現場に携わりながら、 仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングコンテンツ作成や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を担当。
3年間で400名以上のビジネスケアラーであるご家族の相談を受けた経験あり。セミナー受講者数、延べ約2万人超。
【新書】「仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書」(日経クロスウーマン)
今回のセミナーで事前にご質問を募集したところ「そもそも介護準備をどういうところから進めたら良いのかわからない」「何から考えたらいいのかわからない」というものが多く寄せられました。そこで、こんな風に進めていくと楽かもしれません、という「介護準備の手順」を考えてきましたので、そちらに沿って解説いたします。できればと思います。
③でチェックリストについては、③でご紹介します。
①〜④まではあまり親御さんご本人と話さなくてもできるかなというものです。
直接親御さんに聞かないと分からないことは、ストレスもあるかと思いますので最後の⑤に持ってきています。
この順番で行わなければならないということではありませんが、比較的楽に進められる手順かなと思いますので、参考にしてみてください。
最初にご家族のおかれている状況を確認します。
我が家は東京に家族4人で住んでいます。子どもが2人いるのですがまだまだ小さく、子どものことだけで手いっぱいという状況です。
実家は長崎で、すぐに帰れる場所ではありません。70代の両親が2人で住んでいて、すぐ近くに妹と姪が住んでいます。
介護についてはこのメンバーで行っていくことになるかと思います。
最近、介護について考えなければならない状況になってきました。2年連続で入院する事態が起きたからです。
1回目は骨折で入院をしたので本人と話したのですが、お互いに冷静になれずにすぐけんか腰になってしまいました。
そこで父親と話すことは諦め、妹と今後のことについて話すだけでこの時は終わっています。
その後父親に初期のガンが発覚し、手術に。手術後は退院して普通に生活しています。転移については今後調べていくような状況です。
いったん普通の状態ではあるものの、元々父親がやせ型の方のため、これから急激に介護が必要になる可能性もあると思っています。
そこで改めて介護に関わる家族の状況を、確認する必要が出てきました。
私から見た家族の状況は下記の通りです。
・母親は元気なのでメインで介護を行うことになるだろう
・妹は母親のサポートをすることはできるけれど、仕事を減らすことはできないので現状では介護体制に入ることは難しいだろう
・自分自身は離れていて年に1回の帰省も難しいため、多少の経済負担をしないといけないだろう
現状、妹と「(妹が)できる限り在宅で介護をしていく」という合意だけはとれています。姪がいい子なので介護を手伝おうとしすぎてしまう可能性があり、姪を介護に組みこまないようにしようという共通目標も確認することができました。
ここまでが、今私が行えている介護準備です。
親御さんご本人と直接話すのが難しい場合、できれば介護をする人同士で少し話をしておくと良いでしょう。
話し合っておかないと起こりやすいトラブルについて解説していきます。
「近い」人に介護負担が偏ってしまう
主たる介護者が誰なのかを決めておかないと、不公平感でもめてしまうことがあります。
お金をどこから出すかでもめてしまう
親御さんご本人のお金を使うことが基本ではありますが、足りなくなった時のお金の出どころが決まっていないと、金銭的負担が偏ってしまいます。
方針が決まらないことで方針が後手になってしまう
介護の意思決定者が誰なのかをはっきり決めておかないと、方針を決めるまでに時間がかかってしまい、親御さんにも介護者にも負担がかかってしまいます。
このあたりを少しでも話し合っておくと、トラブル回避に役立つかと思います。
一般的な身体的な衰えを見てみると、次のような傾向があります。
自分の親の場合はこれより早いか遅いかなどを、何となく考えていくと良いでしょう。
その上で、介護の始まりとしてよくあるパターンを3つ紹介しますので、どれが1番ありえそうか考えてみてください。
①ゆるやかに足腰から衰える
→今は特に心配することがなく元気だけど年相応に心配になっている場合には、今続けていることができなくなった時のことを想定してみてください。
例:仕事や習い事ができなくなった時、1人で買い物ができなくなった時、家の中でも移動が難しくなってしまった時、など
②ゆるやかに認知機能が低下する
→特に一人暮らしの方は、金銭トラブルや健康リスク、事故リスクが出てくるかと思うので想定してみてください。
③病気やケガで急に介護が始まる
→持病がある方、すでに何度か転倒している方などは急に介護が始まる可能性について想定してみてください。
どのパターンに近いことが起こりそうか、起こった際にどのパターンが1番困りそうかを考えていくつかシミュレーションをしてみると、次の段階が見えてきます。
あまり考えたいことではないと思うのですが、少し考えてみてください。
今介護に関わる家族はどういうメンバーがいて、どう介護していくかということがなんとなくイメージできたら、親御さんの今の状態を確認してみてください。
親御さんの今の状態を確認するには、チェックリストを活用すると良いでしょう。
基本チェックリスト
先ほどのパターンの中で①にあてはまる「ゆるやかに体が衰える」を想定している方は、厚生労働省が出していて全国の地域包括支援センターでも使用されているチェックリストがあります。
厚生労働省:表4 基本チェックリスト
「この1年間に転んだことがありますか?」「お茶や食べ物でむせることはありますか?」
などの25項目があり、生活や健康状態をチェックするための基本のチェックリストとなります。
20項目のうち10項目以上に該当する場合、
なにか介護が必要な状態、もしくはなにかサポートが必要かもしれないという判断ができます。最初のスクリーニングとして活用できるでしょう。
早い段階でこちらでチェックする方は、半年スパン程度で以前と変化のある部分をチェックして、どのあたりが衰えているのかというリスクを知るために考えて使っていただくと良いかと思います。
実際に不安を感じて、地域包括支援センターなどに相談する時に説明がしやすくなりますし、相談された側も次の手を考えやすくなるので、ぜひご活用ください。
認知機能が気になるという方の場合はご家族が目安にできる、認知症の初期症状チェックリストをインターネットなどで調べてみると良いでしょう。
今季は東京都福祉保健局が出しているものをご紹介します。
※現在は「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」に変わっています。
「5分前に聞いた話を思い出せないことがありますか」「電話番号を調べて電話をかけることができますか」など認知機能に関する質問が10項目あり、1点から4点の点数をつけます。20点以上の場合は認知機能に支障が出ている可能性があるので、病院を受診した方が良いでしょう。
病院を受診した方が良いかの目安や、親御さんを説得する材料として使用してみてください。
余力があれば下記のことも確認してみましょう。
日々の生活の様子
・1日/1週間の生活パターン
・趣味/空き時間の過ごし方
・好きな食べ物など
交友関係
・親戚/友人との関わりがあるか
・近所の集まりなど参加しているか
お金関係
・年金、資産の状況
・保険/証券/不動産などの資産の有無
お話をお伺いしていると、親御さんが1日何をしているのか知らない方が意外と多いなと感じました。特に離れて暮らしていると、まったく分からないという方もいらっしゃるでしょう。
特に「暇じゃないか」ということを確認してみるのが大切だと思っています。
健康を維持するために外に出て人と会った方がいいということもあるのですが、そういうことがもともと好きではないという方もいらっしゃいます。
ご自身で空き時間のつぶしかたを上手に行っている方であれば、そこまで気にしなくてもいい可能性がありますので、確認してみてください。
いざというときに家族がサポートできるよう、下記のどちらかは必須です。
・金融機関の代理人カードを作っておく
・通帳・印鑑の置き場所がいざという時に家族にわかるようにしておく
しばらくご本人が意識がない・動けないという事態になる可能性は、親御さんが何歳でもありえます。
同居しているご家族が大体分かるのであれば急ぐ必要はないかもしてませんが、入院して本人が動けない場合や、そのまま認知症になってお金が動かせない状況になってしまった時など、緊急時のために確認をしておきましょう。
⇒「介護準備の手順・後編」につづく
サポナビ編集部