第八回
「ビジネス思考」で介護を乗り切る体験エッセイ『今日も私はシゴトを辞めない!』
「突然親が倒れた! シゴトと介護の両立はできるのか!?」
母も父も突然倒れ、いきなり同時多発介護になった独身ワーキングウーマン・中村美紀50歳。
まるでわからない介護なのに、父母の容態が変わるたびに次々と起こる問題に、仕事一筋の経験を活かした「ビジネスフレームワーク」を使って、なんとか解決策をひねり出し、乗り切っていくコミカルな体験物語。
健康な親が突然倒れた!担当ケアマネジャーはまだいない!どうすればいいの!?
健康に対しての意識が高かった母。
「風呂上りに牛乳を飲む」「ボケ防止のためにトランプ占いを毎日行う」「夕食後には2km程度歩く」など、無理のない程度の工夫を上手に行っていました。
聞いた時には10年以上継続していると言われ、私もびっくりしたものです。
そんな健康に気を配っていた母でさえ、突然倒れました。
救急車で運ばれ、脳の手術をし、長期入院。介護サービス利用を考えなければならない状態に。
母はそれまですこぶる健康だったので、私は介護の知識ゼロ、もちろん担当ケアマネジャーもまだいませんでした。
担当ケアマネジャーさんがいない、これが大変!
親の健康はとても嬉しいことなのですが、突然倒れた場合は、介護サービスを利用していないので、担当ケアマネジャーがまだいない、という状態に陥ります。
一番大変な介護初動時に相談できる専門家がいないと、介護の大変さがさらに増します。
今回は、私の経験談として、ケアマネジャーさん不在の期間がどれだけ大変だったかをお伝えすることで、専門家に頼らないとどんな負荷がかかるのかを具体的に示そうと思います。
▲なぜ自分は大変だったのか…担当ケアマネジャーさんがいなかったからだ!と気づくのはだいぶ先です。
担当ケアマネジャーがつくまでのタイムラグ問題!
介護サービスを利用する場合は、担当ケアマネジャーがつきます。利用者家族からの目線でいうと、介護施設入居の場合は施設に在籍するケアマネジャーさんが担当となる、在宅介護の場合は担当として家に来てくれる、という形です。これが問題です。
在宅介護と介護施設入居で担当ケアマネジャーさんが枝分かれする、ということは、健康な親が突然倒れたケースなどは、在宅介護か介護施設入居か判断するまで担当ケアマネジャーさんがいない、ということになるのです。
この担当ケアマネジャーが不在となるタイムラグ問題
一番大変な介護初動の時期にケアマネジャーさんがいない、という状態が、どんな大変さをもたらすのか、私が経験した「大変さワースト3」を列記します。
大変さ1:「介護のしくみ・知識」の把握
介護初動時には、日常生活を安定させるために決めなければならないこと・やらなければならないことがたくさん発生するが、ケアマネジャーさんがいないと、何かを言われるたびに「それなんだ!?」と自分で調べることからスタートする。
ただでさえ親が倒れて大変な中、専門性の高い介護のしくみや知識をいちいち調べなければならないのは、神経がすり減る。
大変さ2:「介護施設入居」か「在宅介護」かの判断
介護で最も悩むことの一つ、「介護施設入居」か「在宅介護」かの判断を自分たちだけで行わなければならない。
介護施設に入居するということがどういうことなのか、母にどういう影響を及ぼすのか、頼りたい専門家のアドバイスが得られず、適切な判断のハードルがさらに上がる。
大変さ3:「介護施設」の選択
介護施設に入居する場合、自分たちで介護施設を把握し、探さなければならない。
介護業界は拡大基調で、介護に関わる法律も変化が激しく、介護施設形態も多種多様な形で生み出されている印象。
細かい部分まで把握するのは、素人には難易度が高い中、親が入居する介護施設を決定するのは、想定以上に難儀。
―――
のちのち介護のしくみや流れを知った私は、「このタイムラグ、けっこう問題では!?」と思いました。
多くが「要支援から徐々に悪化し、いずれ介護施設入居する」というケースなのか、私の母のように健康な状態から突然倒れて要介護5になり、いきなり介護施設に入居するというケースはあまり想定されていない印象です。
介護者本人や介護者家族の状況を理解し、適切なアドバイスをしてくれるケアマネジャーには、一番大変な介護初動時にこそいて欲しいもの。
ケアマネジャーは、介護保険の管理者としての役割だけでなく、もっと専門家としての介在価値を十分に発揮できる仕組みになって欲しい!その余地はある!と切に思います。
▲健康な親が突然倒れた場合に発生する、介護初動時にケアマネジャー不在となるタイムラグはもっと問題視していいと思います。
介護になったら地域包括支援センターに相談。ケアマネジャーとの違いは想定しておいた方が良さそう
とはいえ、問題点を指摘してばかりいてもはじまりません。
今の仕組みの中で何かできるかを考えて、対策をとることが大事です。
この「担当ケアマネジャーがつくまでのタイムラグ」問題を管轄の区役所に相談したら、「う〜ん、そのような場合は地域包括支援センターを利用する、ということになると思います」という回答でした。
介護になったら「地域包括支援センター」に相談、これが鉄則です。私は当時知りませんでした。これがわかっていたらもっと楽だった!と思います。
が、しかし。それだけではありません。もう一歩踏み込んで考えるとしたら。
地域包括支援センターの役割として、関わるのは短期的となるケースがメイン。親の容態や家族の状況を理解した上で適切なアドバイスをもらうのは、長期的に関わることを前提としたケアマネジャーと比較すると限界があることも想定できます。
「答えをくれ」という姿勢ではなく、「どんなことを相談したいのか」「何に困っているのか」などを積極的に伝え、自ら介入してもらうように働きかけることも大事かもしれません。
仕事と介護の両立のためにも、できることは今から準備したいもの。これをお読みになっているみなさまは、私のような大変な思いをなさらないよう、地域包括支援センターにどう頼るかをイメージしつつ、親の住むエリアの地域包括支援センターを把握しておくことをおすすめします。
これで、ひとまずシゴトを辞めなくてすみそうです。
ひとつひとつ山を乗り越え、今日も、心の中で叫びます。
「こうして私はシゴトを辞めない!」
まとめ
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介護サービスを利用していない状態で親が突然倒れると、担当のケアマネジャーがいない状態となる。
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早々に担当ケアマネジャーを決めたいのだが、介護施設入居か、在宅介護かで、担当となるケアマネジャーの所属先が変わるので、どちらかに決めるまで担当を依頼しにくい状態に陥る
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介護になったら「地域包括支援センター」に相談。この場合、ケアマネジャーと比較すると我が家の介護状況を理解してケアをするのには限界があるかも。自らの働きかけが重要
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今からできることとして、親の管轄エリアの地域包括支援センターを把握しておくこと、何を相談するかのイメージをしておくことをおすすめ
●筆者プロフィール
中村美紀
クリエイティブコンサルタント・編集ディレクター
(株)リクルート フロム エーおよび(株)リクルートに20年在籍。「フロム・エー」「タウンワーク」「とらばーゆ」「注文住宅」など、副編集長・デスクとして10以上のメディア実績を持つ。2012年に独立。紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ教育・組織コンサルタントなどで活動中。国家資格キャリアコンサルタント、米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。
HP
https://miki-nakamura.com/介護ブログ
https://oyakaigo.miki-nakamura.com/
この記事の監修者
木場 猛(こば・たける) 株式会社チェンジウェーブグループ リクシスCCO(チーフケアオフィサー)
介護福祉士 介護支援専門員 東京大学文学部卒業。高齢者支援や介護の現場に携わりながら、 国内ビジネスケアラーデータ取得数最多の仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングコンテンツ監修や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を担当。 3年間で400名以上のビジネスケアラーであるご家族の相談を受けた経験あり。セミナー受講者数、延べ約2万人超。
著書:『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書(日経クロスウーマン)』
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