【第1部】よくある事例からみる、シニアが抱える困りごとと家族関係(前編)

【第1部】よくある事例からみる、シニアが抱える困りごとと家族関係(前編)

2023年5月26日、リクシスは、第5回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。今回のテーマは、家族間コミュニケーションです。遠距離で暮らす高齢の親をもつビジネスパーソンが多い中、今のうちからご家族内で話しておくべきことについて、気になる方も多いのではないでしょうか?
この度は、日本全国でシニアの方々の相談窓口を展開する有識者や介護のプロ、実際に家族間コミュニケーションにおける壁を乗り越えられてきたビジネスケアラーの方をお招きいたしました。70歳以上の高齢なご家族がいらっしゃるビジネスパーソン向けに、今から知っておくべき家族間コミュニケーションの内容やコツについて、徹底解説していきます。

<当日のプログラムおよび登壇者>
第1部:「よくある事例からみる、シニアが抱える困りごとと家族関係」
講演者:小番一弘氏(一般社団法人シニアライフサポート協会 代表理事)

第2部:「介護における家族間コミュニケーションで起きやすいトラブル」
講演者:弊社・木場猛

第3部:「介護体制を築く上でのポイントと、家族だからこそつまづきやすい壁」
講演者:室津瞳氏(NPO法人こだまの集い 代表理事)

本記事では、第1部講演内容(前編)をダイジェストにてご紹介します。

 

講演者プロフィール

小番一弘(こつがい・かずひろ)一般社団法人シニアライフサポート協会 代表理事

東京にてサラリーマンを経て、49歳のときに認知症の母と叔母の介護のために、介護離職し単身札幌へ。介護の経験もなく、ヘルパー2級の資格を取得し、高齢者住宅での当直などを経験。高齢者住宅で勤務する中で、高齢者住宅を探す本人、家族、施設経営者、働く人、地域のミスマッチを強く感じ、NPO法人を立ち上げる。

高齢者住まい問題だけでなく、老後資金、健康、医療、介護問題、不用品処分、空き家問題、不動産処分、身元保証、遺言・相続、葬儀・お墓の困りごと相談にも応じることができる 「ワンストップ相談サービス」を提供している。

第1部(前編)は、一般社団法人シニアライフサポート協会 代表理事である小番一弘氏にご登壇いただき、「よくある事例からみる、シニアが抱える困りごとと家族関係」がテーマです。

小番氏は、高齢者住宅の入居時に必要な身元保証の引受から入退院時の対応や財産管理、認知症等で判断力が低下した場合の後見人の受任をはじめ、エンディングサポートまで幅広い個別相談を受けておられます。

講演では、小番氏が対応された事例を中心にお話しいただきました。実際、シニア世代から寄せられる相談にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

よくある相談はどんなもの?

「相談に来られる方は、70代から90代の高齢者が半分、高齢の親をサポートする子供さんが半分です。相談窓口に寄せられる声は大きく3つあり、1つが医療福祉介護に関することです。例えば、介護認定のことや高齢者の住まいを探すことなどです。2つめは、相続や遺言書作成、死後事務委任契約などの法律にまつわる相談があります。これらについては、弁護士や行政書士、司法書士や税理士の方々にお力添えいただいて解決しています。3つめは、入退院支援や買い物支援、旅行支援などの、生活支援の相談です」(小番氏)

高齢者の方が関わる家庭の相談とは、大きく分けてこの3つ。小番氏の実例では、高齢者である親だけで相談に来られるケースもあれば、親子で一緒に相談に来られるケースもあるそうです。

 

親と子供の意見は必ずしも一致しない

口論をする若夫婦と老夫婦

「当然ある程度元気でなければ、高齢者の方はお一人では相談に来ることはできません。親だけで相談に来られるケースというのは、いずれ自分自身が入るであろう有料老人ホームの知識をつけておきたいという、元気な方に限られます。我々は、札幌で高齢者住宅バス見学ツアーを毎月のように実施していて、元気な高齢者の方は親子で参加されますが、親が入院している場合やすでに介護状態になっている場合には、子供さんが急いで施設を見学して探されているのが現状です」(小番氏)

このように、親が急病となったり介護状態となったり、認知症の進行で意思疎通ができない場合、子供だけの意見で施設を決めてしまうケースも珍しくないようです。子供だけで施設を決めてしまった場合、後々トラブルになることはあるのでしょうか?

「子供が親のために条件の良い施設を探しても、親に施設入所を拒否されてしまうケースがあります。親と子供の希望は必ずしも一致するわけではないため、事前に親子間でコミュニケーションを取り、どんな施設がいいのかあらかじめ決めておいた方がよいでしょう」(小番氏)

 

親が住む家の「モノ」始末

また、いざ施設へ入所することになった場合、自宅にある物すべてを施設へ持っていくことはできません。物があふれがちな高齢者の家。親が施設に入ることとなった場合、この、親が住む家の「モノ」の始末について子供が主体で動いたほうが良いのでしょうか?

「今の高齢者は、時代の影響もあり、物を大事にする方が多い傾向にあります。そのため、年々家の物が増えている状態です。物始末の理想は、親が自分自身で少しずつ整理することです。ですが、自分で整理できず溜まってしまうことも、多々あります。子供が頻繁に親の家の物を確認できないこともあるため、そういった場合には片付け業者や遺品整理の業者に依頼されるケースが多くなります」(小番氏)

小番氏のアドバイスによると、家に不要な物が溜まらないように、親自身で処分・整理しておくことが理想的ですが、現状は整理できずに業者に依頼するケースが増えているようです。しかし、遺品整理業者に依頼する場合の費用も、年々増加してきているとのこと。

「5年前と今では、同じ物の量でも、費用の見積もりを取ると3〜5割増しになっています。遺品整理の運送に使うトラック代やガソリン代、従業員の給料や物の処分費用も上がっているためです。”今後も費用が上がっていくことを考えると、早めに業者に依頼したほうが良かった”という声も少なくありません」(小番氏)

親の意思が確認できるうちに物の始末について相談し、コスト面も踏まえ、早めに処分の方法を決めておくことが得策となるようです。

 

お墓や葬儀、相続について

墓掃除をする家族

子供から親へはなかなか話を切り出しにくい、お墓や葬儀、相続についてはどのように決めていけばいいのでしょうか。これらに関しては、親の方向性が決まっていないと後々揉めてしまう原因になる、と小番氏は語ります。

「亡くなってから子供に迷惑をかけたくないと言う方が多く、親自身で事前にお墓を買う方もいらっしゃいます。我々も札幌に合同のお墓を持っており、子供がいない方や遠方に住んでいる方、お墓を守る家族がいない方に利用していただいています。葬儀に関しては、ご本人がどういった葬儀をしたいのか、エンディングノートに残しておいて下さると、残された側は非常にやりやすいです。本人の意思や意向がはっきりしていないと、良かれと思ってしたことがトラブルや揉め事の原因になってしまうこともあるのです」(小番氏)

では、相続についてはどのような相談が多いのでしょうか?

「遺産がたくさんあって揉めるというケースはほとんどなく、どちらかと言うと、少ないからこそ揉めるというケースを多く見てきました。また、遺産の分け方をどうするかということよりも、生前の介護は誰が一生懸命していたのかなど、お金以外の部分で揉めているご家庭も多く見られます」(小番氏)

小番さんの講演の後半でも語られますが、親にしっかりとエンディングノートもしくはそれに相当する意思の記載を残しておいてもらうことが、家族間のコミュニケーションに役立ち、家族の揉め事を減らす鍵となるようです。

 

Q&A 親が元気なうちに準備しておくことは?

親が元気なうちに準備しておくことは?と言う視聴者からの質問に、小番氏は「人生の最後をどこで迎えたいのか、本人の思いを確認しておくことが大切」だと語ります。

「まずは、準備の第一歩として、最後まで自宅で暮らしたいのか、それとも施設に入るのか、本人の意向を確認しておきましょう。私のセミナーに来られる方に、最後は自宅で暮らしたいか、施設に入りたいか聞くと、だいたい半々に分かれます。最後まで自宅で暮らしたいのであれば、家の段差の解消や手すりの設置など、バリアフリーの住宅整備などが必要です。また、孤独死の恐れもあるため見守りをどうするのかという問題も解決しておく必要があります。施設に入りたいのであれば、事前に本人がどの施設に入りたいのか、元気なうちに一緒に見学などをして検討しておくようにしましょう」(小番氏)

Q&A 親が嫌な思いをせずに話はじめるには?

次に、親へ今後の話をするときに親自身が嫌な思いをせずに話しをしてもらうにはどうすればいいのか?と言う質問がありました。

「親を褒めながら会話をすることが大切です。たとえば、80代のお父さんであれば、男性の平均寿命は81歳なので、今も元気でいることを褒めてあげるとよいでしょう。そして、『人生100年時代なんだから、これからやりたいことあるでしょ』と、深刻な話にならないようにして、今後の人生を楽しんでいくための話をしていくことが良いでしょう」(小番氏)

前編では、小番氏の元に訪れるシニアのよくある相談内容や、親が70歳を過ぎたら子供がやっておいた方が良いことなど、相談実例の中から貴重なお話しを聞くことができました。後編は「家族間の問題を避けるために必要なこと」をテーマに、家族間コミュニケーションを円滑にするポイントをお伺いしていきます。

⇒同イベントレポートの続きはこちら
【第1部】シニアが抱える困りごとと家族関係(後編)

この記事の監修者

サポナビ編集部

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