「特養の費用は年金だけでまかなえる?」「安いと聞くけど具体的にはどれくらいなの?」特養はリーズナブルというイメージがある方も多いと思いますが、具体的にいくらなのか、さらに費用を安くおさえる方法はあるのか、など費用に関して解説していきます。
特養とは、特別養護老人ホームの略称で、公的な介護保険施設です。
原則要介護3以上の方が対象ですが、料金の安さと在宅にはない介護体制が人気の施設です。
・24時間体制で介護を受けられる
・入所条件は要介護3以上
・費用が安い
・終身で利用が可能
▼特養についての詳しい記事はこちら
「特別養護老人ホーム(特養)の特徴と入居条件とは?」
特養の費用は「月額の利用料金のみ」です。毎月必要な料金は大きく分けて以下の5つです。
・住居費
・食費
・日常生活費
・介護サービス費
・サービス加算費用
上記の費用を毎月支払う仕組みになっています。
住居費とは家賃のこと。特養の住居費は、国が定めた「基準費用額」に基づいて設定されています。
部屋のタイプ(個室、多床室など)によって費用が大きく異なります。
また、住居費には「負担限度額認定」が適用されます。
負担限度額認定とは、収入や資産に応じて自己負担の上限金額を定め、超えた分は介護保険から補填されるというもの。
所得の段階は以下のように第1段階〜第4段階に分けられています。
特定区分 | 対象者 |
第1段階 | 生活保護受給者
老齢福祉年金受給者の本人および世帯全体が市民税非課税の場合 |
第2段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金年収入額とその他の合計所得金額が80万円以下 |
第3段階① | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金年収入額とその他の合計所得金額が80万円超~120万円以下 |
第3段階② | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金年収入額とその他の合計所得金額が120万円超 |
第4段階 | 住民税課税世帯の場合 |
所得段階別、部屋タイプ別に費用(負担限度額)(日額)をまとめたものが、次の表になります。
居室タイプ | 第1段階 | 第2段階 | 第3段階① | 第3段階② | 基準費用額 |
多床室 | 0円 | 11,100円 | 11,100円 | 11,100円 | 25,650円 |
従来型個室 | 9600円 | 12600円 | 24,600円 | 24,600円 | 35,130円 |
ユニット型個室的多床室 | 14700円 | 14700円 | 39,300円 | 39,300円 | 50,640円 |
ユニット型個室 | 24600円 | 24600円 | 39,300円 | 39,300円 | 60,180円 |
引用元:https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/hoken/tokuyo/cost/ 「特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)とは?/ 居住費の負担限度額」
食費は、入居者の1日3回分の食事にかかる費用です。
昼間に外出して施設の食事を取らなかった場合でも、3食分の費用を払う必要があります。
ただし、入院などで数日施設に戻らない場合は、事前に食事をストップすることで食費の支払いを呈することもできます。
また、食費にも「負担限度額認定」が適用されます。
所得段階別に費用(負担限度額)(日額)をまとめたものが、次の表になります。
第1段階 | 第2段階 | 第3段階① | 第3段階② | 基準費用額 | |
食費(1ヶ月分) | 9000円 | 11,700円 | 19,500円 | 40,800円 | 43,350 |
引用元:https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/hoken/tokuyo/cost/ 「特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)とは?/ 食費の負担限度額」
理美容代、医療費、病院までの交通費、日用品代、嗜好品、入場料などが必要なレクリエーション費など、これらの日常生活費は、全て自己負担になります。
例外として、おむつや尿取りパット代、クリーニングを必要としない洗濯代は施設側の負担となります。
施設介護サービス費とは、入居時に介護を受けるために必要な費用のことです。
費用は、要介護度と部屋のタイプにより費用が異なります。
多床室/従来型個室 | ユニット型個室/ユニット型準個室 | |
要介護1 | 17,190円 | 19,560円 |
要介護2 | 19,230円 | 21,600円 |
要介護3 | 21,360円 | 23,790円 |
要介護4 | 23,400円 | 25,860円 |
要介護5 | 25,410円 | 27,870円 |
※自己負担額割合1割で特定区分の第4段階で計算した金額です。施設がある地域等により金額が異なりますので目安としてご覧ください。
※要介護1〜2の場合も特例で特養への入居が認められている場合があるため、要介護1より記載しています。
料金表引用元:https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/hoken/tokuyo/cost/
サービス加算費とは、基本料金にプラスされる金額のことです。
より充実した介護サービスを提供するために、施設ごとに設備や特別な介護ケア、職員の体制などを強化しており、その分のサービス加算が発生します。
施設により提供されるサービスの種類が異なるため、施設のパンフレットやホームページなどでチェックしてみましょう。
項目 | 1日当たりの単位数 | 自己負担/日 | 自己負担/30日 |
初期加算 | 30 | 30円 | 900円 |
個別機能訓練加算(Ⅰ)イ | 56 | 56円 | 1,680円 |
個別機能訓練加算(Ⅰ)ロ | 85 | 85円 | 2,550円 |
個別機能訓練加算(Ⅱ) | 1ヶ月で20 | – | 20円 |
夜勤職員配置加算(Ⅰ)イ | 22 | 22円 | 660円 |
夜勤職員配置加算(Ⅰ)ロ | 13 | 13円 | 390円 |
夜勤職員配置加算(Ⅱ)イ | 27 | 27円 | 810円 |
夜勤職員配置加算(Ⅱ)ロ | 18 | 18円 | 540円 |
夜勤職員配置加算(Ⅲ)イ | 28 | 28円 | 840円 |
夜勤職員配置加算(Ⅲ)ロ | 16 | 16円 | 480円 |
夜勤職員配置加算(Ⅳ)イ | 33 | 33円 | 990円 |
夜勤職員配置加算(Ⅳ)ロ | 21 | 21円 | 630円 |
再入所時栄養連携加算 | 200 ※1回限り | 200円 | – |
栄養マネジメント強化加算 | 11 | 11円 | 330円 |
経口移行加算 | 28 | 28円 | 840円 |
経口維持加算(Ⅰ) | 1ヶ月で400 | – | 400円 |
経口維持加算(Ⅱ) | 1ヶ月で100 | – | 100円 |
口腔衛生管理体制加算 | 1ヶ月で90 | – | 90円 |
口腔衛生管理加算 | 1ヶ月で110 | – | 110円 |
療養食加算 | 6 ※1日3回まで | 6円 | 180円 |
配置医師緊急時対応加算(早朝・夜間) | 1回650 | 650円 | – |
配置医師緊急時対応加算(深夜) | 1回1,300 | 1,300円 | – |
看取り介護加算(Ⅰ) (死亡日以前31日〜45日) |
72 | 72円 | – |
看取り介護加算(Ⅰ) (死亡日以前4日〜30日) |
144 | 144円 | – |
看取り介護加算(Ⅰ) (死亡日前日・前々日) |
680 | 680円 | – |
看取り介護加算(Ⅰ) (死亡日) |
1,280 | 1,280円 | – |
看取り介護加算(Ⅱ) (死亡日以前31日〜45日) |
72 | 72円 | – |
看取り介護加算(Ⅱ) (死亡日以前4日〜30日) |
144 | 144円 | – |
看取り介護加算(Ⅱ) (死亡日前日・前々日) |
780 | 780円 | – |
看取り介護加算(Ⅱ) (死亡日) |
1,580 | 1,580円 | – |
在宅復帰支援機能加算 | 10 | 10円 | 300円 |
在宅・入所相互利用加算 | 40 | 40円 | 1,200円 |
認知症専門ケア加算(Ⅰ) | 3 | 3円 | 90円 |
認知症専門ケア加算(Ⅱ) | 4 | 4円 | 120円 |
認知症行動・心理症状 緊急対応加算 | 200 ※入所後7日のみ | 200円 | – |
褥瘡マネジメント加算(Ⅰ) | 1ヶ月で3 | – | 3円 |
排せつ支援加算(Ⅰ) | 1ヶ月で10 | – | 10円 |
サービス提供体制強化加算(Ⅰ) | 22 | 22円 | 660円 |
サービス提供体制強化加算(Ⅱ) | 18 | 18円 | 540円 |
サービス提供体制強化加算(Ⅲ) | 6 | 6円 | 180円 |
※自己負担額割合1割、1単位10円の設定です。施設がある地域等によって金額が異なるので目安としてご覧ください。
出典:厚生労働省「介護報酬の算定構造(令和3年4月施行版)」
特養の月額利用料は、先に解説した通り、部屋のタイプによって異なります。
以下の表は、部屋のタイプ別の月額費用例(住居費+食費+日常生活費+介護サービス費の合計金額)です。
居室タイプ | 多床室 | 従来型個室 | ユニット型個室的多床室 | ユニット型個室 |
要介護1 | 96,190円 | 105,670円 | 122,950円 | 133,090円 |
要介護2 | 98,230円 | 107,710円 | 124,990円 | 135,130円 |
要介護3 | 100,360円 | 109,840円 | 127,180円 | 137,320円 |
要介護4 | 102,400円 | 111,880円 | 129,250円 | 139,390円 |
要介護5 | 104,410円 | 113,890円 | 131,260円 | 141,400円 |
※日常生活費は個人で異なるため、目安として10,000円と仮定しています。
※要介護1〜2の場合も特例で特養への入居が認められている場合があるため、要介護1より記載しています。
引用元:https://kaigo.homes.co.jp/manual/facilities_comment/list/hoken/tokuyo/cost/
特養の費用は軽減制度を利用することで、安くすることができます。
低所得の方などを支援する制度もあるため、要件を満たす場合は利用しましょう。
具体的には下記の軽減制度があります。
・負担限度額認定
・社会福祉法人の利用者負担軽減制度
・高額介護サービス費
・高額医療・高額介護合算療養費制度
・医療費控除
・扶養控除
それぞれの制度を紹介します。
先にも少し解説した通り、負担限度額認定とは、収入や資産に応じて自己負担の上限金額を定め、超えた分は介護保険から補填されるという制度です。
所得の段階は以下のように第1段階〜第4段階に分けられ、特養の住居費と食費に適用されます。
特定区分 | 対象者 |
第1段階 | 生活保護受給者
老齢福祉年金受給者の本人および世帯全体が市民税非課税の場合 |
第2段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金年収入額とその他の合計所得金額が80万円以下 |
第3段階① | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金年収入額とその他の合計所得金額が80万円超~120万円以下 |
第3段階② | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金年収入額とその他の合計所得金額が120万円超 |
第4段階 | 住民税課税世帯の場合 |
所得が少ない方が、社会福祉法人が運営している特養を利用する場合に、費用負担を軽減できる制度です。原則、介護サービス費自己負担額と、住居費、食費の1/4または1/2の軽減がされます。
・年間収入が単身世帯で150万円、世帯員が1人増えるごとに50万円を加算した額以下であること。
・預貯金等の額が単身世帯で350万円、世帯員が1人増えるごとに100万円を加算した額以下であること。
・日常生活に供する資産以外に活用できる資産がないこと。
・負担能力のある親族等に扶養されていないこと。
・介護保険料を滞納していないこと。
・社会福祉法人等利用者負担額軽減対象確認申請書
・介護保険被保険者証
・社会福祉法人等利用者負担軽減確認証(すでに交付されたことがある方)
・収入申告書
・世帯全員の収入や資産、扶養状況が確認できる書類
この軽減制度を利用するには、各自治体の窓口で必要書類を揃えて申請をする必要があります。
1ヶ月に支払った利用者負担の合計が、負担限度額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。
所得ごとに上限額が異なります。また、介護に関する費用の全てが支給対象となるわけではないため、詳しくはケアマネジャーや自治体に確認してみましょう。
医療保険や介護保険が高額となった場合に、自己負担額の一部が軽減される制度です。
・国民健康保険・被用者保険・後期高齢者医療制度の各医療保険の世帯であること
・医療保険および介護保険の自己負担の年間合算額が所得区分に対応した限度額を超過していること
所得額により、自己負担額が決められています。
この制度を利用するには、各自治体の窓口で申請をする必要があります。
該当年となる1月1日〜12月31日までの一年間に、自身または家族が一定以上の医療費を支払った場合に、所得の控除を受けられます。
・年間10万円以上の医療費を支払っている場合が対象
・控除の上限額は200万円(総所得が200万円以下の方の場合は総所得の5%になるよう減額)
対象となるのは施設サービスの対価(介護費、食費および居住費)に係る自己負担額として支払った金額の2分の1に相当する金額であり、日常生活費などは医療費控除の対象外です。
配偶者以外の親族を扶養している方は、所得の控除を受けられれます。
・生計を同じにしており、かつ年間の合計所得が38万円以下(給与収入103万円以下)である16歳以上の親族が対象
・扶養対象が70歳以上であれば、控除額は48万円(同居している場合は58万円)
参考サイト:https://www.minnanokaigo.com/guide/cost/tokuyou/
ここからは特養についてのよくある質問に答えていきます。
特養の入居待ちの状況は、地方と都市部で大きく異なります。
地方では申し込みから1〜2ヵ月で入居が可能で、実質待ち時間なしという状況もあります。
全国的な入居待ち時間で最も多いのが3ヶ月未満、次に多いのが6ヶ月〜1年です。
早い者勝ちではありません。
申し込み後に、介護度や認知症の進行具合などにより、施設で行われる入所判定会議にて優先度が決められます。
そのため、早く申し込んでもすぐに入居できるというものではないということを覚えておきましょう。
特養の月額費用は所得などにより個人差がありますが、90,000〜150,000円が目安です。初期費用がかからず月額費用のみのため、一般的には年金だけでもまかなうことができると言えます。
数ある入所型介護施設の中でも、公的介護保険施設である特養の費用は最安値です。初期費用は不要で、月額利用料も安く、世帯収入によっては減額制度も設けられています。
手厚い介護サービスの提供と費用面でのメリットが大きく、その人気の高さから、「長い期間入居待ち」「いつ入れるか分からない」というケースもしばしばです。
入居を検討されている方は、早めに申込ができるよう準備を進めておきましょう。
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金山峰之(かなやま・たかゆき) 介護福祉士、社会福祉士、准看護師。福祉系大学卒業後、20年近く在宅高齢者介護に従事。現場専門職の傍、介護関連の講師業(地域住民、自治体、国家公務員、専門職向け等)や学会のシンポジスト、介護企業向けコンサルティング事業、メーカー(ICT、食品、日用品等)へシニア市場の講演などを行っている。
厚生労働省関連調査研究事業委員、東京都介護人材確保関連事業等委員など経験。
元東京都介護福祉士会副会長。政策学修士。