2023年7月21日、リクシスは、第7回『ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。本オンラインセミナーは、高齢化の流れが加速する日本社会において、現役世代として働きつつ、同時にご家族の介護にも携わっている「ビジネスケアラー」の方々とその予備軍となる皆様に向けたセミナーです。
今回のテーマは「親と自分のためのロコモ対策」。
ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは、加齢に伴い「立つ」「歩く」といった運動器(移動機能)が弱っていくことを言います。
基本的な知識から自宅でできるロコモ対策まで、詳しく解説をしていただきました。
最近親御さんの外出頻度が減って運動不足が心配な方や、筋力・健康維持が心配だという高齢者の方々はもちろん、ロコモという言葉を初めて聞いたという方にも、介護予防の観点からぜひ知っておいてほしい内容です。
<当日のプログラムおよび登壇者>
▼当セミナーのアーカイブ動画はこちら(無料会員限定でご視聴いただけます)
本記事では、第1部〜第2部の講演内容をダイジェストにてご紹介します。
▼講演者プロフィール
石橋英明(いしばし・ひであき)医療法人社団愛友会 伊奈病院 副院長/整形外科科長/NPO法人 高齢者運動器疾患研究所代表理事(ロコモアドバイスドクター・サポートドクター)
(伊奈病院 公式HP: https://www.inahp.saitama.jp/ )
第1部、第2部では、ロコモチャレンジ推進協議会という団体も設立なさっている石橋英明先生にご登壇いただきました。
まずは、高齢者の運動器に関する基礎知識や疾患についてのお話をお伺いしています。
平均寿命と同じく、平均余命というものがあるのをご存知でしょうか?
平均余命とは「ある年齢の人が、その後何年生きるか?」ということを表している数値です。
厚生労働省が出している簡易生命表の令和2年版を見ると、65歳の男性は85歳、女性はほぼ90歳まで生きるという推定寿命になっています。
ここ最近はコロナの影響もあり平均余命が短くなった時もありますが、基本的に平均余命は伸びていきます。これからの時代は「90歳超えが当たり前」という時代になってくるでしょう。
今回のロコモの話は「長生きをしましょう」というよりも、元気に長生きしていくためにはどうすればいいのかという話だとお考えください。
運動器は年齢によってだんだん脆弱になっていきます。
骨量は20歳にピークをむかえ、20〜30代は平坦です。女性は閉経前後(45〜50歳くらい)、男性は60歳前後くらいからだんだん減っていきます。
一方筋量はというと、運動や栄養の影響で増えたり減ったりすることがあります。ですが、平均的には40歳以降毎年0.5〜1.0%ずつ低下し、40歳の方と80歳の方を比べると2〜4割ほど筋肉は減っていることになります。
運動器が脆弱になっていくと、徐々に動けなくなって要支援・要介護の原因になってしまいます。
厚生労働省がやっている国民生活基礎調査(2019年)を見てみると、「骨・関節疾患」で要支援・要介護になっている方の割合が意外に多いです。
骨・関節疾患 24.8%
転倒・骨折 12.5%
関節疾患 10.8%
脊髄損傷 1.5%
脳血管疾患(いわゆる脳卒中)は16.1%、認知症は17.6%という結果と比較しても、全体でいうと高い割合で要支援・要介護の原因になっていることが分かります。
ただ、この結果は、男女によっても割合が異なってくるのです。
男性は転倒・骨折と関節疾患を合わせても10%ほどですが、女性は30%以上。男性はその分、脳血管疾患の割合がかなり高まっています。脳血管疾患、すなわち脳卒中は、高血圧、高脂血症、糖尿病といったメタボリックシンドローム関連の病気によってリスクが高まります。
ここからわかることは、男性はメタボ対策が重要、女性はロコモ対策が重要であるということです。
先ほど要支援・要介護の原因についてご紹介しましたが、骨・関節疾患の予防にはもちろん運動が大切です。最近では、脳血管疾患や認知症など、運動器以外のことでも運動が効果的であるということがわかっています。
いくつか例をご紹介いたしましょう。
・糖尿病の改善
→有酸素運動とレジスタンス運動は、ともに血糖コントロールに有効である。
(日本糖尿病学会 「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」)
・高血圧の改善
→ 1日30分程度の中等度(ややきつめ、軽く汗ばむ程度の運動強度)の有酸素運動を推奨
(日本高血圧学会 「高血圧治療ガイドライン2014」)
・脂質異常症の改善
→1日30分以上、週3日から7日の中等度の有酸素運動
(日本動脈硬化学会 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」)
・認知症の予防
→高強度の運動では38%、低〜中強度の運動では35%、認知機能低下リスクが避けられる。
(Sofi F et al: J Intern Med 269: 107-109, 2011)
このように、運動の習慣があると改善や予防できる病気がとても多いことを知っておきましょう。
今回のテーマにもなっているロコモシンドロームは、運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態のことを言います。
骨(支える)、関節軟骨・椎間板(動く)、神経・筋肉(動かす)といった、体を動かすための組織である運動器は、加齢によって徐々に弱くなっていきます。運動機能が低下することによって運動器疾患が起こり、移動機能の低下へと繋がっていくことも。そうすると、生活活動の制限や社会参加の制限、そして要介護状態まで進んでいく可能性があります。
加齢は避けては通れないことですが、「運動習慣がない」「日常の身体活動が低い」「栄養摂取が不適切」という場合には、そこを改善することによってロコモシンドロームが予防できます。
まず、運動器疾患の中でも、皆さんが知っておいた方がいいと思うものをいくつかご紹介いたしましょう。
下記の図を御覧ください。
これらが中高年の方に多い運動器疾患なのですが、いくつか詳しくご紹介いたします。
年齢変化によるくびの骨の変形を頚椎症と言いますが、それが進行して脊髄が圧迫されるのが頚椎症性脊髄症です。
脊髄が圧迫されると、下記のような症状が起こります。
例えばバランス障害を起こしているがゆえに転んでしまい、脊髄にさらに衝撃が加わって手足が麻痺し、寝たきりになってしまうというケースも。
こういった症状が少しでもある場合には、整形外科で診察を受け、X線検査・MRI検査を受けるようにしましょう。
くびと同じようなことが、腰で起こる場合もあります。それが、腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症です。
椎間板が変形し飛び出して神経を圧迫しているのが腰椎椎間板ヘルニア。腰部脊柱管狭窄症は、年齢変化で椎間板が傷んだり周囲の筋が分厚くなってきたりすることで、じわじわと通り道が狭くなり神経が圧迫されます。
神経が圧迫されるという共通点はありますが、中高年に多いのは腰部脊柱管狭窄症です。
腰部脊柱管狭窄症の特徴をしっかり覚えておきましょう。
症状がありましたら、整形外科を受診するようにしてください。
変形性膝関節症は、ひざが痛む方の代表的な原因となる疾患です。
変形性膝関節症の原因は、軟骨の摩耗によって引き起こされる関節内の炎症。
軟骨に過剰な負担がかかると、荷重部の軟骨が磨耗します。すると、軟骨の分解物によって滑膜の炎症が起きて次のような症状が出てきます。
日本人は9割以上内側の軟骨が減ることが多く、それによってO脚になっていきます。O脚になるとますます内側の軟骨が減っていき、更に進行が早まってしまいます。
筋肉は、ひざなどの関節を動かすだけでなく、関節を安定にする作用もあります。更に衝撃の緩和にも繋がっています。
軟骨を守るためには、筋力の強化がとても大切になってくるということを覚えていてください。
また、炎症が起きた時に無理に動き続けてしまうと、炎症性因子の分泌が更に増えてしまいます。
痛みを感じたら必ず休むということを意識していきましょう。具体的には、運動や外出などのあとに、その日の夜まで痛む、次の日になっても痛む、といった場合は、3日~1週間くらい運動や過度な動きを控えてください。元の状態に戻ったら、半分くらいの運動量から始めて、徐々に増やしていってください。痛んだら休む、これが大切です。
骨粗鬆症とは、骨強度(骨密度と骨質)の低下により骨折しやすくなった状態のことです。
骨は新陳代謝を繰り返しています。古い骨を溶かすのが「骨吸収」、新しい骨を作るのが「骨形成」と言われていますが、骨吸収の作用が強くなりすぎると骨粗鬆症を発症してしまいます。
骨粗鬆症の診断基準は、以下の通りです。
I. 脆弱性骨折 あり
1. 椎体骨折または大腿骨近位部骨折あり
2. その他の脆弱性骨折があり、骨密度がYAMの80%未満
II. 脆弱性骨折なし
骨密度がYAMの70%以下またはー2.5SD以下
※YAM:若年成人平均値 (腰椎では20~44歳、大腿骨近位部では20~29歳)
※-2.5SD以下=「平均値より標準偏差の2.5倍以上低い」の意
推定患者数は推定患者数1280万人(1番新しいデータでは1600万人とも言われています)、うち女性は900万人。主な症状は、円背、身長低下、腰背部痛など。骨折にも繋がっていきます。
約7割は遺伝で決まると言われていますが、糖尿病・肺気腫・胃切除後・早期閉経などでなりやすく、女性は閉経後に進行しやすいです。
骨粗鬆症になるかどうかは、主に成長期にどれだけ骨が増えるかと、閉経期・中高年期にどれだけ骨が減るかで決まります。
骨粗鬆症で骨折になりやすいのは、海綿骨といわれる骨です。
背骨、手足の骨の端っこ(足の付け根や肩、手首など)などに海綿骨が多くあります。
特に足の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)は、特に問題が大きいです。
年間20万件起きていて増加傾向にあり、寝たきりの主要因にもなっています。機能予後や生命予後を悪化させるため、医療コスト・介護コストが高額になることも特徴です。
お年寄りで大腿骨近位部骨折の原因は、80%が立った高さからの骨折です。若い時には起きないことですよね。
高齢者の方が転倒した後に強い股関節痛を起こしている場合、だいたいは大腿骨近位部骨折をしていると言っても過言ではありません。そういう自体になった場合は、すぐに救急車を呼んだ方がいいでしょう。
寝たきりの場合、オムツ交換や体位変換だけでも骨折してしまうことがあります。じわっと動かす場合は大丈夫ですが、硬くなった股関節を急に動かすと折れてしまうことがあるので、注意が必要です。
また、レントゲンをとっても骨折がわからないこともあります。不全骨折・転位(骨折部のずれ)が少ない骨折の場合には痛みが少ないこともあり、数日で痛みがひいて歩行できるということもあります。
しかし、その後でずれて歩けなくなるので、病院で大丈夫だと言われたけど1習慣後にまた痛みが出たなどあったら、またレントゲンを撮りにいったり、MRIで見てもらったりすると良いでしょう。
骨粗鬆症の予防には骨吸収抑制薬と骨形成促進薬がありますので、栄養も大切ですが、薬も効果があります。
そして身の回りの転倒リスク因子を減らしておくことも大切です。
サポナビ編集部