子育てと介護、どちらも責任が重く、同時に担うことは多くの人にとって大きな課題です。
**30代の40.3%、40代の59.1%**が「仕事・子育て・介護のいずれかを同時に両立している」と回答しています(当社調べ)。
子育て世代のビジネスパーソンの方々と話す中で、次のような声を耳にすることがあります。
「親に子育てをサポートしてもらっていたけど、今度は親の介護が始まり、仕事との両立が課題に…」
「里帰り出産で実家に戻ったら、親の異変に気づき、いつの間にか介護が始まっていた」
今回は、こうした「ダブルケア」の課題に直面しながらも前向きに両立を目指す方の一例として、東京都在住で7歳と0歳の二児の母・会計士の**真里さん(40歳・仮名)**にお話を伺いました。
真里さんのご両親は四国で2人暮らし。2019年、母親がアルツハイマー型認知症と診断され、遠距離でのリモート介護をスタートしました。
現在、真里さんは第二子の育児休業中で、今年8月に職場復帰を予定しています。子育てと介護、そして仕事の両立にどう備えているのか、詳しく伺いました。
東京都在住の真里さん(仮名)の事例
第一子の里帰り出産で実家に戻った際、母親の同じ話の繰り返しに違和感を覚えたという真里さん。徐々に物忘れが増え、約2年後にアルツハイマー型認知症と診断されました。
介護の中心は父親が担っており、平日はフルタイム勤務のため、日中は母親が独居状態に。そこで真里さんは、自宅から次のような遠隔ケアを行っています。
しかし、職場復帰後はこれらのケアが困難になることから、訪問介護サービスの導入を検討中です。
一方で、母親は元々しっかり者で、他人の手を借りることに抵抗を感じる可能性があることから、父親は慎重な姿勢。真里さんは、父親の負担を減らしたいと考えながらも、介護サービス導入に踏み切れないジレンマを抱えています。
最近では、父親にも疲労の兆しが現れ始め、真里さんは「このままでは両親が共倒れになるかもしれない」と懸念。
そんな中、真里さんは自治体の情報を調べ、認知症サポーターによる傾聴ボランティア訪問サービスを発見。提案したところ、父親も「気になっていた」として受け入れてくれたそうです。
「いきなりすべての介護サービスを使うのではなく、小さく始めることで父と母が少しずつ受け入れやすくなれば…」
真里さんは、そんな気持ちで体制づくりを進めています。
真里さんの夫は、結婚前に自ら父親の介護を経験。「介護していることを忘れるくらい、あまり口にしなかった」という夫の姿勢に影響され、真里さんも「家族に負担をかけたくない」と、つい介護の話題を控えるようになっていたそうです。
しかし、次第に心に余裕がなくなり、家族にイライラをぶつけてしまうことが増えたといいます。
そんな自分に気づき、勇気を出して夫に話してみたところ、夫はしっかりと耳を傾けてくれたそうです。
「介護も子育ても、自分にしかできないことはある。でも、一緒にできることは協力してやっていこう」
夫の言葉に、真里さんは安心と感謝の気持ちが湧いたと話してくれました。
真里さんは8月の復職に向け、上司に子育てと介護の状況を共有する予定です。幸いにも、職場は従業員の個別事情への理解がある職場風土とのこと。
復職後も必要に応じて介護休暇などの制度を活用しながら、コミュニケーションを取りつつ両立の形を探りたいと考えています。
子どもが急な発熱などで預けられない場面も想定し、仕事の柔軟な調整方法についても準備中とのことでした。
子育てと遠距離介護を抱えながら、復職に向けて一歩一歩準備を進めている真里さん。
最後に、これから同じような立場になるかもしれない方へのメッセージをいただきました。
「子育ても介護も仕事も、やることがたくさんある日々。でも、自分の“やりたいこと”は諦めないでください。少しでも楽しく、自分の機嫌を取りながら暮らしていけたらいいと思います。」
こうした“ビジネスケアラー”の存在は今後ますます増えると予想されます。
だからこそ、個人の工夫や努力だけでなく、企業による柔軟な支援制度の整備も求められています。
NPO法人こだまの集い代表理事 / 株式会社チェンジウェーブグループ シニアプロフェッショナル / ダブルケアスペシャリスト / 杏林大学保健学部 老年実習指導教員
介護職・看護師として病院・福祉施設での実務経験を経て、令和元年に「NPO法人こだまの集い」を設立。自身の育児・介護・仕事が重なった約8年間のダブルケア経験をもとに、現場の声を社会に届けながら、働きながらケアと向き合える仕組みづくりを進めている。
【編著書】『育児と介護のダブルケア ― 事例からひもとく連携・支援の実際』(中央法規出版)【監修】『1000人の「そこが知りたい!」を集めました 共倒れしない介護』(オレンジページ)
サポナビ編集部