日本全国の介護事業者をピックアップ!今回は、東京都西多摩郡にて地域密着型通所介護を展開する株式会社くらしあす代表の坂本孝輔(さかもとこうすけ)さんにインタビューを行いました。
坂本孝輔(さかもと こうすけ)氏(写真右)
株式会社くらしあす代表
介護福祉士、介護支援専門員、認知症介護指導者(42期)。地域密着型通所介護と居宅介護支援事業所を運営。株式会社くらしあす代表。現場で働きながら認知症を中心とした研修講師としても活動。趣味は音楽(ギター、ベース、ウクレレなど)、映画鑑賞、読書。
坂本氏:弊社は、二本木交茶店(西多摩郡瑞穂町)、二俣尾幸廻堂(青梅市二俣尾)、一日定員10名の2つのデイサービスを経営する、小規模の介護事業者です。ご利用者様もスタッフも、どちらも幸せに生きることを目指し、特に認知症ケアに力を入れています。小規模であることを活かして、徹底した個別ケアおよびご家族の支援を行なっています。というよりも、そうした徹底した個別ケアを行いたいからこそ、小規模であることを選んでいます。
日々の具体的な活動としては、家事や畑、買い物や外出を中心に活動しています。毎日昼ごはんをご利用者様と職員が力をあわせて作ります。ご利用者様たちが安心していられる居場所であることを最優先に考えているので、決まったプログラムの推進ではなく、ご利用者様のモチベーションを大切にしています。
結果として、ご利用者様の中に「自宅に帰りたい」と訴える方はいません。むしろ「デイサービスには行きたくない」というご利用者様たちから選ばれ、喜ばれていることが誇りです。また職員には、お子様連れでの出勤を認めています。職員にとっても働きやすいだけでなく、ご利用者様たちも、小さなお子様たちとの交流が日々の楽しみの大切な部分にもなっています。
坂本氏:弊社は、認知症ケアに強みを持っています。とはいえ、認知症といっても症状は様々です。また、認知症の人の性格も人それぞれです。本来であれば、そうした認知症の介護には一つとして同じ回答が無く、これで良いという正解もありません。それでも私たちは介護のプロですから、限りなく正解に近い答えを求めて、ご利用者様それぞれに対して徹底的に向き合っています。
非常に重要になるのは、デイサービスに来ていただいているときだけ、幸せに落ち着いて生活できる状態を目指しているのではなく、ご自宅に戻ってからも、そうした状態が提供できることです。そうでないと、一緒に暮らされているご家族の負担は、ご利用者様がデイサービスにいらしているときだけしか下がらないということにもなるからです。
どのようにしたら「この方」が心穏やかに過ごせるのか、どんな時間の過ごし方に楽しみを見出せるのか、毎日、試行錯誤です。うまくいったかと思ったら、次はダメでまた試行錯誤という繰り返しが行われています。ある意味で「この方」のための介護を考える試行錯誤をやめないことが、私たちが考える徹底した個別ケアでもあります。
坂本氏:介護のプロであるということは、まず、そうした試行錯誤において、個人的な経験や直感にばかり頼るのではなく「認知症とは何か」という客観的・医学的なレベルから考えることが求められます。その上で、介護の方法についても「こうしたら上手くいった」という現場レベルの体験談をそのままにすることなく、それを「この方にはどのように向き合っていくと良いのか」という”コツ”として体系化・言語化する必要があると思っています。
私たちは、認知症の人の心(脳)の中では、どのような故障が起こっているのか?その脳の故障は、日常生活にどのような影響を及ぼしやすいのか?その脳の故障による影響は、どのようにしたら最小限にとどめる事が出来るのか?その上で「この方」は、日常生活の中でどういったところに困難を得やすいのか?といったことを考えています。それらを体系化・言語化しつつ、その成果をご家族や他の介護サービス事業者、あるいは次の生活ステージ(介護施設など)に伝えていきます。
体系化・言語化された”コツ”が共有されているからこそ「その方」は、私たちのデイサービスにいらしている時だけでなく、ご自宅や、他の場所でもその人らしく、穏やかで幸せな日常を取り戻せるのではないでしょうか。ご利用者様の生活は、デイサービスだけで閉じていません。ですから、直感に優れた職員がデイサービスで介護をする時だけ「その方」が落ち着いて生活できるという状況は、介護の正解ではないわけです。もちろん、これは目標であって、毎回うまく行っているというつもりはありませんが、とにかく、私たちはそうした徹底した個別ケアを目指しています。
坂本氏:介護の専門性という意味では、確かに世間から誤解されていると感じることもあります。しかし、逆から考えると、福祉というのは「誰にでも(相手の人間性に対して誠実に向き合えば)できる」とも言えるのかもしれません。
例えば、介護のプロとして「この方」の既往歴(病気の歴史)や生活習慣などを正確に把握(アセスメント)し、主治医などと連携して医学的に正しい対応を行なっていくという部分では、世間が考える以上に高い専門性が求められます。しかし、福祉の仕事には「その人が、どんな存在であるか」という根本のところを捉えようとする態度が必要なのです。これは専門性というよりは、人間性の部分ではないでしょうか。
「この方」が今、どんな事を今感じているのか。何に苦しみを感じ、何を喜びに感じるのか。「この方」は、家族にとってどんな存在であるのか、また本当は自分自身でどんな存在でありたいと思っているのか。「この方」が介護を必要としているのは確かですが、しかし「この方」は介護を必要とする以前からずっと人間なのです。私たちが友人や家族、同僚などと向き合うのと同じように「この方」の人間としての部分に対して誠実に向き合うということは、専門性の話とは違うように思います。専門教育を受けてもこれができない人もいますし、逆に、素人でもこうしたことに長けた人がいます。
福祉の仕事を通して「この方」の病気を治すことはできません。しかし「この方」が少しでも自分らしく生きようとすることを応援することはできます。ですから、私たちが目指している徹底した個別ケアを実現するには、科学的であるだけでは不十分です。「この方」について、もっと深く理解したいという気持ちは、ご利用者様1人あたり、月平均で50枚の写真(事業所全体では月平均1,000枚程度)を撮影させていただいているという形にも現れています。私たちが「この方」をどれほど大切な存在として感じているか、必ずしも写真の枚数の問題ではないことは明らかです。それでもやはり、撮影された毎月50枚もの写真をみんなで振り返ると、じんわりと来るものがあります。
坂本氏:繰り返しになりますが、写真の枚数が重要なのではありません。ただ、私たちは、自分にとって大切だと感じる対象を撮影しますよね。私たちのデイサービスでも、もちろん撮影ノルマがあるわけではありません。そうではなく、自然な形で撮影されたものが積み上がった結果としての毎月50枚という部分に、私たちの徹底した個別ケアを感じていただけたらと思っています。
ご利用者様も職員も、誰もが強さと弱さをあわせ持った一人の人間として認め合い、協力しあって生きていくのが本来の姿だと思っています。自発的に撮影される写真は、濃い人間関係が形成されている間接的な証拠に過ぎません。とにかく、病気や不自由さを持っているからといって、弱者のレッテルを貼ることは絶対にしてはならないと、私たちは考えています。
私たちは、すべての人にはかけがえのない力が備わっていて、それらは、認知症によっても失われる事が無いことを知っています。だから私たちの本当の仕事は「この方」のかけがえのない、その力を見つけて、守り、育んでいくことなのです。むしろ私たち職員の方が、そうした力に助けられることも少なくありません。病気そのものや、病気の症状がもたらす混乱や経済困窮がもたらす苦悩は、ご利用者様の人格とは決して混同してはならないのです。
坂本氏:ある社外のケアマネージャーが、介護に悩むご家族に対して、弊社について次のように述べてくれたことがあります。
「朝早くの時間帯や夜中にでも、ご家族の手に負えないような状況になっても、二本木交茶店さんには訪問サービスもあるので、連絡すればすぐに助けに来てくれます。だから安心してください。訪問サービスと言っても、別の事業所から知らない人が来るのではなく、慣れ親しんだ二本木交茶店のスタッフさんが来てくれるから、認知症の人も安心して介護を受けやすいのです。」
弊社の社名「くらしあす」は、スペイン語の「グラシアス(ありがとう)」から来ています。いざというときに頼りになる存在でありたいと思ったからです。弊社はデイサービスという形態ではありますが、ご利用者様とそのご家族の生活全体に対して、少しでもポジティブな影響を及ぼしたいと考える職員で構成されているチームです。
地域に密着した小規模な事業者の中には、弊社のように、小規模だからこそ可能になるサービスを展開している事業者も存在しています。大規模な事業者には、大規模であるからこその良さもあるでしょう。同時に、小規模には小規模の良さがあることも、ご理解いただけたらと思います。
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株式会社くらしあす 二本木交茶店(にほんぎこうさてん)
株式会社くらしあす代表
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サポナビ編集部