子育て・介護のダブルケアと仕事の両立~実践者の体験談【続編】見守りは“お守り”でいい──リモート介護の心を軽くするヒント~

子育て・介護のダブルケアと仕事の両立~実践者の体験談【続編】見守りは“お守り”でいい──リモート介護の心を軽くするヒント~

インタビュー: 室津(チェンジウェーブグループ/ダブルケアスペシャリスト)
語り手: 真里さん(会計士/40歳・仮名/東京都在住・7歳と0歳の二児の母)

 

前編・後編を経て見えてきた「続けられるリモート介護」

本シリーズでは、子育てと介護が同時にのしかかる「ダブルケア」の中で、仕事を続けることを選んだ実践者の体験をお届けしています。

前編
「子育て・介護のダブルケアと仕事の両立~実践者の体験談(前編):育児休暇の復帰~」
https://navi.lyxis.com/posts/7275

 

後編
「子育て・介護のダブルケアと仕事の両立~実践者の体験談(後編):リモート介護~」
https://navi.lyxis.com/posts/7282

そして本記事は、その後編の続編にあたります。今回は、ご両親をICT(見守りツール)=リモート介護の一部として支えながら、「見える安心」と「自分の心の負担」との折り合いを、どのようにつけていったのかに焦点を当てます。

安心のために始めたはずの見守りが、いつの間にか自分を縛っていた。そこから、見守りを“お守り”として位置づけ直すまでのプロセスを、インタビュー形式でひもといていきます。

 

見守り導入のきっかけ

室津:
見守りを含めたリモート介護を始めようと思ったきっかけから教えてください。

真里:
四国の実家で、父と認知症の母が二人暮らしをしていて、母の様子が常に気がかりでした。電話では限界があって、元気そうに聞こえても、本当の生活の様子はわからないことも多くて。遠距離だと、「何かあったときに気づけない」ことが一番怖かったんです。だから、すぐに状況を確認できる手段がほしいと思い、見守りを含めたリモート介護を考え始めました。

室津:
まずは安心につながる仕組みを整えたかったんですね。

真里:
はい。でも導入は想像以上に大変でした。実家にはWi‑Fiがありませんでしたし、機械が苦手なのは父のほうで。設置や操作一つひとつがハードルでした。帰省したときにしか対応できないので、「今回こそ整えなきゃ」と、毎回プレッシャーを感じていました。

 

見守る安心が、いつしか“見すぎてつらい”に変わった

室津:
実際に見守りを取り入れてみて、どんな変化がありましたか?

真里:
最初は、本当に安心しました。でも次第に、何度も確認するようになっていったんです。映像に、父と母のちょっとした言い合いが映るだけで胸がざわついて、「今すぐ電話したほうがいいのかな」と落ち着かなくなってしまって。電話をすれば、かえって二人を疲れさせてしまうとわかっているのに、気持ちが止まらないことも多かったです。

室津:
それだけ心が動くのは、大切に思っている証拠ですよね。見える情報が増えると、気持ちが揺れやすくなるのは自然なことです。

真里:
そう言ってもらえると、少し救われます。見守っているつもりが、いつの間にかリモート介護の仕組みに振り回されている感覚がありました。

 

夫のひと言で気づいた“線引き”の必要性

室津:
そこから、何か転機になる出来事はありましたか?

真里:
夫から言われたんです。「気にかける気持ちはわかる。でも、そのことで今の生活に影響が出ているよ」って。その一言で、ハッとしました。

室津:
短い言葉でも、深く届くことがありますよね。

真里:
私は自分の生活を削りながら親を見ていた。でも、親はそれを本当に望んでいるだろうかと考えたんです。その瞬間、胸の奥にスッと風が通るような感覚がありました。

 

「優先順位」は冷たさではなく、自分と家族を守る選択

室津:
そこから、どんなふうに考え方が変わっていきましたか?

真里:
全部見なくてもいい、全部背負わなくていいと思えるようになりました。罪悪感がなくなったわけではありません。でも、東京での生活や、子どもたちの今と未来を守ることも、同じくらい大切なんですよね。それは決して、親を見捨てることではないと、少しずつ思えるようになりました。

 

今は「ほとんど見ない」。それでもリモート介護を続ける理由

室津:
今は、見守りとはどんな距離感で付き合っていますか?

真里:
実は今は、ほとんど映像を見ていません。見るとどうしても気になってしまって、心配が膨らみ、子どもや夫との暮らしに影響が出てしまうからです。

室津:
それでも、リモート介護の仕組み自体は続けているんですよね。

真里:
はい。親に異変があったとき、私がすぐに様子を確認できる状態であること。その安心があるから、続けています。常に見る必要はありません。でも、「必要なときに確認できる」備えがあることで、私の心は保たれています。

 

まとめ──“全部見ない勇気”が、暮らしを支える

遠距離でのリモート介護は、「自分がやらなきゃ」という気持ちを強くしがちです。でも、真里さんの言葉が示すように、自分の生活を守ることは、親への愛情と矛盾しません。

見守りは、監視ではなく“お守り”。心が安定する使い方こそが、親にも、自分にも、家族にも優しい形です。

「親の人生は親のもの。私の人生は私のもの。どちらも大切だからこそ、無理のない距離を選びました」

 

この記事を書いた人

室津 瞳(むろつ・ひとみ)
NPO法人こだまの集い代表理事 / 株式会社チェンジウェーブグループ シニアプロフェッショナル / ダブルケアスペシャリスト / 杏林大学保健学部 老年実習指導教員
介護職・看護師として病院・福祉施設での実務経験を経て、令和元年に「NPO法人こだまの集い」を設立。自身の育児・介護・仕事が重なった約8年間のダブルケア経験をもとに、現場の声を社会に届けながら、働きながらケアと向き合える仕組みづくりを進めている。
【編著書】『育児と介護のダブルケア ― 事例からひもとく連携・支援の実際』(中央法規出版)【監修】『1000人の「そこが知りたい!」を集めました 共倒れしない介護』(オレンジページ)【共著】できるケアマネジャーになるために知っておきたい75のこと(メディカル・ケア・サービス)

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