親がごはんを食べない。せっかく配食弁当を手配しても、食べていない。ヘルパーさんが調理しても、文句ばかり言って残す。こんな相談、実はよくあります。
よくあるアドバイスは、「違う弁当を試してみたら?」「味付けの合う業者を探して」「火を使わせないようにIHに替えましょう」。もちろん、どれも間違いではありません。でも、実際やってみると、うまくいかないことも多いのです。
料理好きでもない親が、なぜ他人の作ったごはんをここまで嫌がるのか。今回は、その奥にある気持ちに目を向けてみます。
高齢の親御さんが弁当や他人の料理に不満を言うのは、味や栄養だけの問題ではありません。
ずっと自分で作ってきた人、自分で食べるものを決めてきた人にとって、用意された食事は「自分の生活じゃない」のかもしれません。誰かに任せきりにしかできず、自分では決められない。内容が何であれ、その不自由さが、いろいろな文句になって出てくることもあります。
認知症の影響で、IHのボタン操作がうまくできなかったり、火加減の感覚をつかみにくくなったりすることは珍しくありません。それでも「自分でやりたい」「自分で決めたい」という思いは、残っていることが多いのではないでしょうか。
どれを食べるか、自分で決めるだけでも気分は違います。
極端な例で言うと、海外の聞いたこともないい料理のレトルト。物産展の感覚です。普段の味とはまったく違うけれど、逆に「これはそういう食べ物」として受け入れられるかもしれません。比較対象がないので食べるまで好き嫌いはわかりません。「今日はこれを試してみよう」と気楽に付き合える可能性に賭けてみるのも一興です。
※ティラキタのインドレトルト通販などでは、見たことのないパウチや珍しい名前の料理も選べるので、「今日はムンバイの屋台で人気のパオバジですよ」と言われると、なんだこれはと思いつつ物産展感覚で受け取ってくれるかも。
弁当やおかずのベースは用意して、あとはポン酢やゆず胡椒、七味などで本人に仕上げてもらう。ちょっとしたアレンジができるだけでも、「自分で選んだ」感覚があります。
ホットクックや炊飯器調理など、「材料を入れてスイッチひとつ」で済む便利な家電も、慣れない人にとっては難関になることがあります。特に、ボタン操作が複数あるものや、「スタートを押しても反応がない」「ランプが光ってるけど温まってない」といった“家電あるある”は、認知症の方には混乱のもと。
長谷川あかりさんの“ご自愛ごはん”レシピは、炊飯器などの身近な道具だけでつくれるレシピ集です。ただし、その手順は認知症でなくても少し戸惑うようなユニークさがあり、「ちゃんとできるかな?」という気持ちにさせられることも。
だからこそ、家族やヘルパーが「助けてあげる」ではなく、同じ立場で「一緒にやってみようか」と関われる。本人に主導権がありつつ、周囲も自然に寄り添える。そんな関わり方ができるツールでもあります。
レンジで温めるだけのものでも、仕上げに薬味を添えたり、小鉢を足したりはできます。何かひとつでも自分で手を出せば、全部「他人のせい」にはしにくくなるかもしれません。
毎食バランスの整った料理を、ストレスなく食べてもらいたい。そう思う気持ちは本当に大切です。
でも、知らず知らずのうちに「こうあるべき」と思い込んでいたり、自分の許容範囲のハードルが上がっていたりすることもあります。
目指したいのは、
そのためには、料理そのものの工夫だけでなく、「どう関われるか」という視点が役に立ちます。
★ 調理器具・家電
リンナイ SAFULL+:火が見える昔ながらの操作で安心感あり
シャープ ホットクック:使いこなせれば便利だが、シンプル操作に限定して使うのがベター
炊飯器+長谷川あかりさんのご自愛レシピ:簡単で、意外な作り方を楽しめる
★ 宅配弁当・食品サービス
ナッシュ:冷凍でも見た目・味にこだわりがある
ワタミの宅食:やさしい味付けで定評あり
ティラキタ(インド系レトルト):異文化感で味の好みを超えて楽しめることも
★ 調味料・アレンジアイデア
食卓に薬味を並べて「自分の味付け」を楽しんでもらう
七味、ゆず胡椒、柚子ポン酢、ラー油、刻みねぎ など
木場猛(こば・たける)
株式会社チェンジウェーブグループ リクシス CCO(チーフケアオフィサー)、介護福祉士、介護支援専門員
ヘルパー歴22年以上 介護福祉士・ケアマネージャーとして延べ2,000組以上のご家族を担当。東京大学文学部卒業。高齢者支援や介護の現場に携わりながら、 仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」ラーニングコンテンツ作成や「仕事と介護の両立個別相談窓口」相談業務を担当。3年間で400名以上のビジネスケアラーであるご家族の相談を受けた経験あり。セミナー受講者数、延べ約2万人超。【新書】「仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書」(日経クロスウーマン)
介護プロ編集部