日本の介護制度は、世界と比べてもかなり整っていると言われることがあります。高齢化が進んでいる国は他にもありますが、日本ほど急速に、そして制度的に対応してきた国はあまり多くありません。
では、なぜここまで介護サービスが制度として整ったのでしょうか。
その背景には、日本の文化や社会の成り立ち、そして人口構造の変化が関係していると考えられます。
今回は、日本の介護制度がここまで整った背景を、3つの視点から見ていきます。
最初の理由として挙げられるのが、日本人の「制度を受け入れる姿勢」です。
日本では、国民皆保険制度が当たり前のように定着してきました。公的な制度には従うもの、という意識が強く、平等であることを重視する価値観も、制度の受け入れを後押ししてきたと考えられます。
また、日本には宗教を通じたケアの文化があまり根づいていません。
欧米などでは、教会や地域のボランティアが高齢者を支える仕組みが存在していますが、日本ではそれが期待できませんでした。その分、行政が制度として介護を支える必要がありました。
つまり、「公的制度に頼るしかない社会だった」という構造が、制度整備を進める背景になっていったと考えられます。
次に、日本独特の儒教的価値観として、「親の介護は子どもがするもの」という考え方があります。昔から、家族で高齢者を支えるのが当たり前とされてきました。
こうした考え方は、介護制度の土台にも影響を与えてきました。制度として提供されるサービスも、単に作業をするのではなく、「家族の代わり」になることが求められてきました。
その結果、介護サービスは自然と丁寧で、心配りのあるものになっていったのです。こうした高い基準が、サービスの質を引き上げ、多様な選択肢が整っていくことにもつながりました。
3つ目の理由は、日本における高齢化のスピードです。
日本は、他の国と比べても圧倒的に早く高齢化が進みました。高齢化率が7%から14%に達するまでの年数は、フランスが126年、スウェーデンが85年、英国が46年、ドイツが40年です。これに対し、日本はわずか24年。1970年に7%を超えると、1994年には14%に到達しました。*令和4年版高齢社会白書(全体版) 高齢化の状況 内閣府
このスピードに対応するため、制度の整備も短期間で進める必要がありました。ドイツや北欧諸国が何十年もかけて介護制度を整えてきたのに比べ、日本は急速な社会変化に追われる形で仕組みを整えてきたのです。
さらに、2000年に介護保険制度がスタートしてから、団塊の世代が一気に高齢者層に入り、核家族化や女性の社会進出も進んだことで、家族だけで介護をするのが難しくなりました。
社会の変化に制度が追いつかざるを得なかった、というのが実情だったのかもしれません。
ここまで、日本の介護制度が整った理由を3つ紹介してきました。
「制度に頼るしかなかった」「家族を大切にしてきた」「社会が変化に追いつこうとした」
その全部が重なって、今の制度が形づくられました。
全員が対象となる介護保険、多様なサービス、身近な相談窓口など、他の国と比べても日本の制度には多くの強みがあります。
ただ、制度があることと、実際に使えることは別の問題です。 たしかに日本の制度は整っていますが、「どう使えばいいのかわかりづらい」「家族が介護をすべきという暗黙の了解が残っている」「介護サービスを担う人材不足」といった課題も残っています。
これからも制度が多くの人にとって「使えるもの」になっていくためには、制度を知ること、使いながら慣れていくこと、そして時には見直すことも必要かもしれません。
もしあなたも介護サービスを利用することがあれば、ぜひ感じたことを言葉にしてみてください。
その気づきが、次の誰かのヒントになるはずです。
介護プロ編集部