#仕事と介護の両立

介護離職をしてはいけないこれだけの理由

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この記事を書いた人

株式会社リクシス 酒井穣

株式会社リクシス 創業者・取締役 酒井 穣
慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg大学経営学修士号(MBA)首席取得。商社にて新規事業開発に従事後、オランダの精密機器メーカーに光学系エンジニアとして転職し、オランダに約9年在住する。帰国後はフリービット株式会社(東証一部)の取締役(人事・長期戦略担当)を経て、2016年に株式会社リクシスを佐々木と共に創業。自身も30年に渡る介護経験者であり、認定NPO法人カタリバ理事なども兼任する。NHKクローズアップ現代などでも介護関連の有識者として出演。

著書:『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018)、『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2023)

介護離職したら、再就職できず、再就職できても年収は男性4割、女性5割減少

介護離職をした場合、再就職までにかかる期間として統計的に最多となっているのは1年以上です(男性の38.5%、女性の52.2%)。そして、介護離職をしてから運よくあらたな職場を得たとしても、収入は男性で4割減、女性で半減するというデータがあります。

介護離職をするなら、まず、1年以上収入が途絶え、再就職できたとしても今の半分程度の年収になっても生きていけるだけの貯金が必要です。貯金が足りないまま介護離職をすれば、親が資産家でもない限り、あなたは生活保護を申請することになります。

介護は、いちどはじまると、いつ終わりになるか予想ができません。子育てとは真逆で、介護は、時間とともに負担が増えるという特徴もあります。介護期間の目安となるのは、平均寿命から健康寿命(心身健康でいられる年数)を引いた年数です。日本でこれは、だいたい10年程度になります。

介護離職をして年収が半分になって10年も経つと、介護離職をしなかった場合からは想像もできないほどの貧困になります。さらに今後の日本は、物価高になっていくと予想されています。いつ終わるとも知れない介護に悩まされながら、金銭的にも厳しくなると精神的な余裕がなくなり、ニュースになるような虐待にもつながってしまいかねません。

 

介護離職をしたら介護の負担は逆に増える

介護を理由に仕事を辞めた人(介護離職をした人)の約70%が、経済的・肉体的・精神的な負担は「かえって増えた」と回答しています。介護離職をする場合、自分の収入が途絶えます。介護にお金がかかるのに、自分の生活費でさえままならなくなります。また、介護離職をして介護を自分の手で行うと決めた場合、肉体的な負担が増すのも当然でしょう。

こうして金銭的にも肉体的にも追い詰められた結果として、精神的にも厳しくなっていきます。介護を理由としてメンタルヘルス不調をおこす人は、約25%(4人に1人)にもなるというデータもあるのです。仕事と介護の両立が難しいと考え、負担を少なくしたいと思って退職しようとしているなら、それは恐ろしい誤解です。

2018年6月2日に放送されたNHKスペシャル『ミッシングワーカー 働くことをあきらめて・・・』では、こうした介護離職などを理由として、労働市場への再起ができなくなった人(ミッシングワーカー)が、当時の時点で100万人以上いるという衝撃の事実が明らかにされています(介護離職だけが理由ではない点には注意も必要ですが)。

関連記事:介護離職とミッシング・ワーカー問題について

ミッシングワーカー

 

介護離職を避けるには、入浴と排泄の介護をプロに任せること

介護を理由に退職する人(介護離職をする人)と、そうでない人の違いは、親の要介護度(公式に認定される介護を必要とする度合い・レベル)が高いか、低いかではありません。その決定的な分かれ道となっているのは、身体介護(入浴介助、排泄介助、食事介助)を、自分で担っているか、それとも介護サービス事業者に頼っているかです。

「施設に入れないと、仕事と介護の両立は無理」と考えられがちです。しかし仕事と介護を同時にこなしている人の約8割が在宅介護をしているという事実は無視できません。要するに、どれだけ公的な介護サービスの支援を受けられているかがポイントなのです。

ここで、身体介護において最も負担が大きいと言われるのが入浴介助と排泄介助です。そうした身体介護と家事を、介護サービス事業者(または自分以外の親族)に頼れる体制を構築することが仕事と介護の両立の鍵になります。

 

地域包括支援センターに相談しましょう

介護離職を考えるほどに仕事と介護の両立に疲弊しているとするなら、地域包括支援センター(およびケアマネージャー)に相談することが大切です。この時、もう限界であることと合わせて、自分がどこまで介護に関わりたいのかを、はっきりと伝える必要があります。

「どうしても、自分がやらなければ!」と強く思い込んでしまっているなら、身寄りのない高齢者であっても、公的な介護を受けながら、笑顔で暮らしている人も多いという事実を知る必要があります。日本の社会福祉は、完璧からはほど遠いものの、諸外国と比較すれば、世界一と言って良いほどに充実しているのです。

それにも関わらず、介護離職をしてしまう人の47.8%までもが誰にも相談していないのです。そして「体力的に難しい(39.6%)」「自分以外に介護をする人がいない(全体の29.3%)」といった理由から介護離職をしています。地域包括支援センター(およびケアマネージャー)に相談しましょう

もちろん内容にもよりますが、こうしたことを毎日、すべてヘルパーにお願いしても、目安として月額5万円程度の出費にしかなりません。介護離職をしていなければ難しくない出費だと思います(もちろん、痛い出費ではありますが)。

 

関連記事:地域包括支援センターとは?役割や相談できることについてわかりやすく解説

 

ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由

<参考文献一覧>

収入は男性で4割減、女性で半減というデータ
※参考文献:産経新聞、『衝撃…介護転職した人の年収は男性4割減、女性半減!「介護離職ゼロ」掲げる政府や企業は有効な手立てを打てるのか?』、2016年2月18日

70%が負担はかえって増えたと回答
※参考文献:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、『仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査』、平成24年度厚生労働省委託調査結果概要

メンタルヘルス不調が25%
※参考文献:町田いづみ, 保坂隆, 2006, 『高齢化社会における在宅介護者の現状と問題点–8486人の介護者自身の身体的健康感を中心に』, 訪問看護と介護 11 (7), 686-693

介護離職者の47.8%が誰にも相談していない
※参考文献:毎日新聞、『介護離職「相談せず」48%?決断前の情報提供が課題』、2017年5月20日

 

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