#仕事と介護の両立

口から始める、親の健康寿命の延ばし方~体の衰えとお口の関係からわかる『フレイル』を加速させない方法~(②後編・高齢者の口腔に関するよくあるお悩み)

第14回全国ビジネスケアラー会議 #仕事と介護の両立

2024年1月26日、リクシスは第14回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。
今後、高齢社会がより一層加速する日本において、仕事をする傍らご家族の介護を行うビジネスケアラーの方が増えてきます。
現役のビジネスパーソンが突如として介護と仕事の両立の壁に立たされたとき、働き方や介護の方法について、どのような選択を行うべきか悩む声が後を絶ちません。

 

今回のテーマは「口から始める親御さんの健康寿命の延ばし方」です。
口腔機能の低下は生活の質を落とすだけでなく健康にも影響するなど、​​体の衰えとお口の関係は​​​​繋がっています。
「フレイル」を加速させないためにも、日頃からお口の状態を把握し適切な口腔ケアが必要です。
今回は、自宅でできる口腔ケアや、親御さんとのコミュニケーションの取り方など、介護予防において知って得する知識をお伝えします。

 

この記事では、

  • 口腔ケアについて高齢者によくあるお悩み
  • 高齢者の摂食ケアについて

などのテーマでまとめています。

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①「口から始める、親の健康寿命の延ばし方(前編・口腔ケアと基本ポイント)」
②「口から始める、親の健康寿命の延ばし方(後編:高齢者の口腔に関するよくあるお悩み)」⇐このページのテーマ
③「Q&A編」

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登壇者プロフィール

宮本 友未(みやもと・ゆみ)  一般社団法人エンパシティックライフ代表理事

明治大学農学部農学科中退後、関東歯科衛生士専門学校卒業。一般歯科で8年、その後フリーランス歯科衛生士として約6年勤務。2019年2月に一般社団法人エンパシティックライフ、2023年3月に合同会社Hoshika、2023年4月に一般社団法人愛知介護福祉事業者支援連盟を設立。2023年10月 には訪問歯科あいちの副院長に就任した。

カウンセリング経験と歯科衛生士の知識を融合し、患者様の心に寄り添い「すべての人がいつまでも自分の口で食べることができる」社会を実現することを目標に、訪問口腔ケアのできる歯科衛生士の育成、訪問歯科・口腔ケアの拡充、訪問歯科・口腔ケアのスタートアップコンサルティング、多職種連携、病院・施設での口腔ケア研修等を主な活動とする歯科衛生士チーム「一般社団法人エンパシティックライフ」の代表理事を務めながら、5人の子どもの母親でもある。

《保有資格》歯科衛生士、メンタルケア心理士、フードコーディネーター、スイーツ・スペシャリスト、 パンマイスター、医療事務、英検2級、普通自動車免許

 

口腔ケアについて高齢者の方によくあるお悩み

口腔ケアは健康や生活の質を維持するためにとても重要なことですが、特に高齢者の方になると、実際はスムーズにいかないことも多いです。
介護現場における高齢者の方のよくあるお悩みについてご紹介します。

 

歯磨きの習慣がない
歯磨きの習慣がない方にとって1番の問題は、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まることです。
歯磨きを習慣化できている方は、口腔ケアが必要になったとき歯科医師や介護スタッフに協力的です。一方、以前から歯磨きの習慣がない方は、口腔ケアに対し消極的な傾向にあります。
高齢になってから今までの習慣を変えることはとてもパワーが必要です。若い頃からしっかり歯磨きを行なって欲しいと思います。

 

かたいものが食べづらくなってきた
かたいものが食べづらくなる原因はいくつかあります。

・入れ歯が合わない
・歯の本数が少なくなってきた
・歯がグラグラしている

原因によって処置が違うので、歯科医師や歯科衛生士にご相談ください。

 

よくむせる
ゴホゴホと咳のように音をたててむせる方は、肺炎になりかけているサインです。重度な肺炎を患っている場合は咳も出なくなります。
むせることは肺炎の入り口であると考え、嚥下を診てくださる歯科医師や歯科衛生士または言語聴覚士から状態を評価していただくと良いでしょう。

 

歯磨きの際、入れ歯を外さない
入れ歯を外してくださらない方に対し、無理に外すのは絶対にNGです。
「入れ歯を綺麗にすると気持ちいいですよ」「私たちがお預かりしてきれいにしますので、貸していただけませんか?」と頼み込みましょう。
入れ歯を外してくださったらたくさん褒めてお返しするようにしております。

 

歯医者に行きたがらない
歯医者は「痛そう」「怖い」などのマイナスイメージをお持ちの場合がほとんどです。
気軽な気持ちで行けるように、お散歩しながら気づいたら歯医者に来たというスムーズな流れを作ると、受け入れやすいと思います。

 

歯医者や口腔ケアに拒否感のある方への対応のポイントは?

介護を必要とする方の中には、歯医者や口腔ケアに拒否感のある方も多くいらっしゃいます。
口腔ケアは毎日の習慣のため、無理に行なってしまうと不快感につながります。歯磨きを行うと「お口の中が綺麗になってさっぱりする」「食事が美味しくなる」など具体的なメリットを伝え、褒めて楽しみながらケアしていただくのがベストです。
さまざまなケースへのアプローチ法や対処法をお伝えいたします。

 

なかなか口を開けてもらえない場合
口を開けてくれない方はなぜ「口を開けられないのか」または「開けたくないのか」という原因を探ることが大切です。
口腔内の奥に、開口反射が起きやすい「Kポイント」と言われる部位があります。歯列に沿って奥歯に指を進め、上下の奥歯の突きあたりに辿り着いたら、やや内側を優しく刺激してみてください。
その際に下記を意識して、決して無理強いをしないように対応すると良いでしょう。

・目線を合わせること
・語りかけること
・信頼関係の形成をすること

 

認知症の方の場合
認知症を患っている方は以下のような悩みがあります。

・歯磨きの仕方を忘れてしまう
・歯磨きをしたかどうか忘れてしまう
・口腔ケアスタッフの顔を忘れてしまう

認知症の方へは、毎回「初めまして」の気持ちでスタートしながら、毎回同じことを行うようにしていきましょう。
いつものパターンができると、同じ手順で進めていくうちに記憶が刺激されます。歯磨きに使用するアイテムを間違えないように、紛らわしいものは置かないようにすることも大切です。

 

うがいができない方の場合
顔を少し傾け、指で口唇を下げてガーグルベースン(受け皿)に出します。その後、スポンジブラシや口腔ウェットシートで水分を拭き取りましょう。

 

寝たきりの方の場合
寝たきりで座ることができない方は、体を横向きに寝かせます。クッションや枕を背中に当てて体を安定させ、顔の下にはタオルを敷きましょう。
横向きが難しいときは、仰向けのまま顔だけ横に向けてもかまいません。

 

口腔ケアグッズの選定はどうする?

口腔ケアグッズの代表である歯ブラシや歯磨き粉は、種類が多く選び方に迷う人も多いでしょう。
それぞれの選び方のポイントについてお伝えします。

 

歯ブラシ
最適な歯ブラシは下記のようなものです。

1.毛束は3列
2.毛はストレートカット
3.毛先は丸く極細ではないもの
4.歯ブラシの毛幅の目安は指2本分程度
5.毛の硬さは柔らかめ〜ふつう(症状に合わせて歯科医師に相談する)
6.柄は持ちやすいもの

歯ブラシは消耗品です。
反対側から見て毛先が広がっている状態は、清掃効率が落ちています。
新しい歯ブラシが100%で磨けるのに対し、毛先が開いた歯ブラシは62.9%の汚れしか落とせません。毛先が開いた歯ブラシで頑張って磨いてもきれいにならないため、定期的に取り替えましょう。

歯ブラシを清潔に保つポイントは、使用後の歯ブラシは極力ケースには入れず、流水で洗い毛先をしっかり乾燥させることです。
歯ブラシを保管する際は、他の人の歯ブラシと接触しないように注意しましょう。

 

歯磨き粉
歯や歯周病予防に効果的な薬用成分が配合されているものを選びましょう。
一般的な歯磨き粉の成分には、研磨剤が入っています。研磨剤は歯にツヤを与える一方で、やすりのように多少歯の表面を細かく傷つけてしまう恐れがあるので注意が必要です。
研磨剤が入った歯磨き粉を口腔内に停留させた状態で飲み込むと、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。そのため、うがいができない高齢者の方には、歯磨き粉の使用を推奨していません。

 

摂食嚥下のリハビリテーションはどんなものがある?

摂食嚥下とは、食べ物を認識してから口を経由して胃の中へ送り込む一連の動作を言います。
高齢者の方は摂食嚥下が徐々に低下する傾向にありますが、リハビリを行うことで回復や状態の維持が可能なケースもあります。
口腔内のリハビリは、末期の方や看取り期の方には効果が現れにくく、健康な頃からしっかり口を動かしていくことがもっとも効果的です。

【口腔リハビリテーション・口腔レクリエーションの手法】

間接訓練

頬のふくらまし体操、パタカラ体操、呼吸訓練 、頸部ストレッチ 、舌運動 、唾液腺マッサージ 、顔面神経マッサージ、バンゲード法 、プッシング、プリング訓練 、アイスマッサージ 、ブローイング訓練 、吹き戻し 、風船 、紙風船

直接訓練

とろみ付き水分 、プリン 、ゼリー、アイスクリーム、ドライフルーツ 、するめ など

 

【ブローイング訓練】

1.ペットボトルにストローを挿す
2.水を入れてブクブクと息を吐く
 コップに入れる水の粘性や量を変えると、難易度を調整できます。
 1セット5〜10回行います。
 体調に合わせ回数を調整し、誤って水を吸い込まないように注意しましょう。

 

パタカラ体操の効果

パタカラ体操は発音するだけで道具がなくても簡単にできるため、頻繁に取り入れられているトレーニングです。

・パ…唇を開け閉めする力を強化
・タ…舌の先の力を強化
・カ…舌の奥の力を強化
・ラ…舌を巻く力を強化

毎回「パタカラ」と言うのが負担になる場合は、機能が落ちてきた1文字だけ切り取って強化する方法もあり参考にしていただけると良いかと思います。

 

食事をする時の支援である「摂食ケア」とは

最後までご自身の口で食事を摂れる方は半分もいらっしゃいません。大半のご家族が摂食方法の選択に迫られる時期が訪れます。
選択を迫られたときに困らないためにも、摂食ケアを理解して、少しずつ心づもりして備えることが重要です。
食事支援は「胃瘻」や鼻に管を入れる「経鼻栄養」「中心静脈栄養」など高齢者の方の状態に合わせたさまざまな方法で行われます。

 

摂食ケアの実例

スプーンでの食事が不可能との判断を受けて転院した高齢者の方の実例をご紹介します。

  • 初回訪問時年齢:79歳
  • 性別:女性
  • 要介護 5
  • 既住歴:誤嚥性肺炎、アルツハイマー型認知症、症候性てんかん、摂食機能障害など
《これまでの経緯》
前の病院では、七分粥ソフトミキサー食が提供されていました。
しかし、スプーンで与えても女性の口が開かないためソフト食の提供が不可能と判断されています。
その後、シリンジでゆるめのとろみ食に変更したところスムーズに食べましたが、女性のご家族はスプーンで食べる人間らしい食事を希望されたので、転院することになりました。
《転院先での判断》
「飲み物はとろみなしでコップから直接飲める」「入れ歯ではなくご自身の歯がそろっている」「たまに指示があると口を開ける」ことから、食べる機能は落ちていなく限定的に食べられるものがあると判断し、摂食ケアを行うことにしました。
《女性の様子》
ご家族から作っていただいた常食を介助しながら提供したところ、最初は口を開けませんでした。口元を触って刺激していくと、口を開けてくれました。脳と神経が繋がりご自身で食べ物を噛むことも成功しています。
2口目以降は自然に口を開けてくださり、前院では不可能と言われていた常食を食べることができました。

 

口腔の専門家に相談してみる

上記のように、現在の病院や看護師さんの意向などで常食が不可能であると判断された場合でも、高齢者の口腔ケアに詳しい専門チームに頼めばご自身の口で食べる機能が回復するケースもあります
看護サマリーが全てではありません。病院で言われたことを必ずしも鵜呑みにする必要はなく、口腔に詳しい専門家にセカンドオピニオンとしてご相談いただくのも良いでしょう。

 

「Q&A編」につづく



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